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侍ジャパンに規律はあったのか

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

テレビ画面に、呆然とする田中将大(楽天)の姿が映った。ベンチで泣く内川聖一(ソフトバンク)も。選手たちの心中は察するに余りある。でもプロは結果がすべて。なぜ侍ジャパンは準決勝でプエルトリコに完敗し、3連覇を逃したのか。

前回WBCの日本代表と比べると、今回の侍ジャパンには「ディシプリン(規律)」が欠如していたと思う。野球に限らず、日本のチームスポーツが国際大会で優勝するためにはこれがマストである。ディシプリンなくして、闘う集団の真のチームワークは醸成されない。

WBCの日本ラウンドの最中、杉内俊哉(巨人)の不倫キスが写真誌で報じられた。2月の宮崎合宿中の宿舎内での出来事だったとされる。日の丸を背負って戦おうという選手である。これは、ない。

まあ、でも人間だから、時には過ちを犯す。問題は、山本浩二監督ら首脳陣が杉内をチームに残したことである。確かに戦力としては投手陣の核となる選手だろう。だが、山本監督の覚悟を示すためにも、即刻、侍ジャパンから追放すべきだった。

国際試合の短期決戦では、技術より、メンタル面が勝敗を左右する。チームの士気を高めることがいかに大事か。だから、なんだかんだいっても、前回WBCではイチローの存在が大きかったのである。日本人大リーガー不在は、戦力云々というより、チームのディシプリンを緩くしたのではないか。

果たして山本監督に覚悟はあったのか。一事が万事。試合でも、プエルトリコ戦の重盗失敗のあいまいなサインに象徴されるように、選手の自主性に判断を委ね、監督が自身の責任を回避しているように見えた。

現場から長く離れていたからか、監督の勝負勘、決断力は甘かった。どだいテレビ画面に映る山本監督の風貌、目は勝負師のそれではない。そう感じた。

旧知の野球記者からの伝聞情報だが、東尾修・投手総合コーチは、田中投手がオフ返上で練習しているのに、公営ギャンブルに興じていたという。国内の遠征中には、毎晩のように山本監督ら首脳陣が”酒盛り”をしていたそうだ。これでは、選手たちにディシプリンを求めるのは無理だろう。

負けには必ず、理由がある。侍ジャパンにはディシプリンと準備、覚悟が足りなかったのである。

【「スポーツ屋台村(五輪&ラグビー)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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