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7人制ラグビー、日本がコアチーム昇格できたワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

摩天楼都市の香港で“サクラ満開”である。サクラのジャージィを着た日本代表の歓喜が爆発する。満員の4万観客の大歓声がこれを包み込む。あちこちで日の丸の旗が揺れ、表彰式では『上を向いて歩こう』が流れた。

7人制ラグビーの香港セブンズ。日本が、そのワールドシリーズのコア(中核)チーム昇格決定戦で優勝した。瀬川智広ヘッドコーチ(HC)はしみじみと漏らした。「まだまだ、これからです。これがスタートです。でも、このスタートは日本のセブンズにとっても、リオ・オリンピックに向けた強化にとっても、大きな一歩となります」と。

リオデジャネイロ五輪で正式競技となった7人制ラグビー。そのリオ五輪ロードを考えた場合、この勝利はとてつもなく大きい。これで日本は来季のワールドシリーズの全試合出場権を確保した。同シリーズの上位4チームには五輪出場権が与えられる。現実的に考えてこれは無理としても、日本はトップクラスの強豪と真剣勝負を重ねることができる。

経験がものをいうセブンズでこれがどれほど有難いことか。コアチームはトップ15カ国・協会。アジアでは日本だけとなる。来年のアジア五輪予選で優位に立てる。大相撲に例えるなら、十両力士が幕内に番付を上げたようなものだろう。

なぜ、日本はコアチームに昇格できたのか。チームとして成長できたのか。これは五輪競技となったことで、日本ラグビー協会の支援アップが図られたからである。日本代表の岩渕健輔ゼネラルマネジャーによると、瀬川HCになって、強化予算はほぼ倍になったという。選手の所属チームの理解も深まり、15人制日本代表のホープ、藤田慶和と福岡堅樹もセブンズ日本代表メンバーとなった。

香港の大会をみれば、はっきり言って、外国選手のチカラが大きかった。ニュージーランド(NZ)生まれのトンガ系、ロマノ・レメキとフィジー出身のロテ・トゥキリ、ジョセファ・リリダム、NZ生まれのジェイミー・ヘンリー。さらには日本国籍を取得しているトンガ出身のロトアヘア・ポヒヴァ・大和。どの選手も身体能力が高く、セブンズならではの鋭利なラン、スピードがある。

もちろん、他の日本人選手も随分と成長していた。決勝戦の勝利の立役者となったベテランの桑水流裕策、プレーでチームを引っ張った主将の坂井克行…。みな猛練習でタフになっていた。プレーの引き出しが増え、判断力、技術がアップしていた。

これは今回の香港メンバーに限らず、これまで一緒に合宿してきた選手も含め、日本セブンズ全体のレベルアップが成されてきた結果である。とくに「S(ストレングス)&C(コンディショニング)」の向上。

練習の質量とも上がった。ある一定以上のスピードで走り続ける。あるいは緩急をつける。試合後、経験豊富な豪州人のS&Cコーディネーターのディーン・ベントン氏に聞けば、「この1年で日本選手は驚くほど成長した」と顔をくしゃくしゃにした。「インテンシティ(運動強度)、コンディションがよくなった。メンタルも強くなった。世界のトップクラスに近づきつつある」と。

コンディショニングでいえば、今回、香港入りした時、2、3人が風邪で微熱があったそうだ。でも、ドクターらのサポート体制がしっかりしていたので、最終日には回復していた。セブンズで重要となる試合の間のリカバリーも万全だった。

例えば、最終日、サドンデス方式の延長戦の末、難敵ロシアに劇的な勝利を収めたあとから決勝までの約3時間、まずはアイスバスに入り、入念にストレッチ、マッサージを施した。あるいは短時間の睡眠をとるなどもし、リラックスして体力回復に努めたのだった。

要は「準備」である。戦術、戦略も大事だが、からだの準備も同様だろう。さらにいえば、1週前、昇格決定戦出場チーム中、日本だけがワールドシリーズの東京セブンズを経験できていたこともプラスとなった。つまるところ、協会、スタッフを含めた、「チーム一丸となっての勝利」(瀬川HC)だったのである。日本の強化戦略と、みんなの努力と情熱でつかんだコアチーム昇格である。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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