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ラガー自衛官の夢

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

どの顔もまぶしく輝いている。目が真剣である。快晴の9日、東京・辰巳の森海浜公園で、ラグビーの『トップリーグ合同選考会』が開かれた。いわゆる「トライアウト」。桜が舞う中、トップリーグ入りを目指す76人のラガーが走り、ぶつかり、己の体力と技術を採用担当者にアピールした。

「どうしてもトップリーグにチャレンジしたくて」と、25歳の福坪龍一郎さんは必死の形相で言った。この日、日本人選手では唯一の「高卒」。鹿児島・鹿屋工業高校でラグビーに打ち込み、卒業後、自衛隊に入った。約2年間、ラグビーを離れていたが、習志野自衛隊に移ってラグビーを再びはじめた。

関東社会人一部リーグで活躍し、より高いレベルでのラグビーに挑戦したくなった。昨季で自衛隊のラグビー部は辞め、新年度からクラブチームとなった『日本IBMビッグブルー』に入った。

188センチ、102キロとガタイがいい。ポジションがフォワードのロックかナンバー8。練習と試合でのプレーをみれば、フトコロをとれている。つまり、低くなれる。これは好選手の条件である。

「自分は大学にいかず、こういう仕事を選んで、まあ、青春を自衛隊に捧げました。みんなが学生やっていた時に、自分は働いていたのです。ずっと自分でからだをつくってここまでやってきました。地道に努力していくことなら、誰にも負けません」

言葉にチカラがある。坊主頭。ちょっぴりいかつい、ラガーらしいいい顔つきである。でも笑うと、目がやさしい。

強豪大学出身の選手たちのスピードに戸惑いながらも、密集に頭から突っ込んでいく。ラインアウトではナイスキャッチを重ねた。モットーが「がむしゃらにやること」という。

「フィットネスには自信があります。そんな派手なプレーはできないけれど、ひたすらポイントをつくって、それをバックスが生かしてくれればいいナと思っています」

習志野自衛隊といえば、『精鋭無比』でとおる空てい部隊である。つまり、高い高い上空の飛行機からパラシュートで降下することもある。すごいものだ。

「どんな恐怖心にもかてます。訓練を重ねて恐怖心をとっていきます。大事なものは、ひたすら反復練習してつかんだ自信です」

なるほど、ならば、肉弾戦やタックルも怖くはあるまい。自衛隊出身のトップリーガーといえば、元NECの東考三さん、ヤマハの田村義和さんがいる。

夢は?と聞けば、福坪さんは言った。

「トップリーグの試合に出て、活躍することです」

もちろん、トップリーグへの道は甘くはない。この日の合同選考会の参加者で、トップリーグのチームから声がかかるのは4、5人だろう。5月1日には大阪でも合同選考会が予定されている。

ただ可能性が小さくても、チャレンジしなければ何事も始まらない。トップリーガーへの門戸はオープンなのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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