Yahoo!ニュース

女子セブンズ新時代到来のワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

2016年リオデジャネイロ五輪から正式競技となる女子7人制ラグビー(セブンズ)の国内初シリーズ最終戦・横浜大会が20日行われ、アルカス熊谷が決勝でラガール7を46-5で破って優勝を決めた。試合内容はスピード、技術ともに進歩。セブンズを取り巻く環境も改善されており、『女子セブンズ新時代』の幕開けを印象付けた。

横浜大会には10チームが参加。横浜のYC&ACグラウンドには、女子スポーツならではの華やいだ雰囲気の中にも緊迫した試合が繰り広げられた。メンバー12人中、7人制日本代表候補7人を抱えるアルカス熊谷が強さを示し、シリーズ第1戦の龍ヶ崎大会、第2戦の札幌大会に続く完全優勝を遂げた。

「ホッとしました」と、アルカス熊谷の宮崎善幸ヘッドコーチ(HC)は言う。「みんなで世界に通用するプレーをしようと意識していた。(他チームとの違いの)イチバンはフィジカル。とにかく“走れ、走れ”で、攻め勝つことができました」

アルカスは今春、熊谷市にある立正大の女子部員が軸となって発足した女子セブンズのNPO法人。東京学芸大の女子ラグビー部員や他大学の卒業生も加え、レベルアップを図っている。大学のグラウンド、筋力トレーニングルームを使える上、男子選手とも練習ができる長所を持つ。

アルカスの部員は目下、約20人。地元の赤城乳業の社員もプレーする。また「入り口」として、小・中・高校生で成るアカデミーの下部チームもある。こちらは10数人。つまりは、熊谷市の子どもたちが立正大に入り、卒業しても地元企業で働きながらプレーする環境を創出したいと宮崎HCはいうのである。

アルカスの堀越正巳ゼネラルマネジャーは立正大ラグビー部監督。大学を軸に熊谷市を拠点とし、女子セブンズの「五輪メダル獲得」にひと役買いたいとの戦略が見える。クラブの運営費はざっと年1千万円ほどか。スポンサー獲得も検討している。

宮崎HCは、日本代表コーチも務める。「4年で選手の強化が終わってしまうのはもったいない。卒業しても練習の場をおきたいということで、このクラブができました。立正大学という熊谷市にある大学を拠点とし、その入り口としてアカデミーで女子の競技環境を整える。大学の卒業生は地元企業で働いて、その企業の人々も応援してくれる。熊谷を、そんな形のラグビータウンにしたいのです」

ついでにいえば、熊谷ラグビー場は今春、国内トップ選手の練習拠点「ナショナルトレーニングセンター(NTC)」の強化拠点施設に指定されている。

一方、決勝の相手、ラガール7は2010年10月に発足。東京に本社をおく購買戦略研究所を中心とし、雇用と練習環境をサポートしている。

東京フェニックスRCは元日本代表の四宮洋平氏が代表兼監督となり、様々な大学、社会人の選手によって復活した。シリーズに初参加した大阪府茨木市の追手門学院大学女子ラグビー部は昨年発足、元日本代表の後藤翔太氏が指導している。当然、指導者の充実も、女子セブンズのレベルアップと無縁ではない。

日本ラグビー協会も、この国内サーキットを始めるなど、女子セブンズの環境整備に本腰を入れ始めた。国内の試合環境の充実があってこそ、日本代表の強化も進む。高校生の女子の競技人口も右肩上がりで増えており、女子セブンズは好循環に入っている。

課題はどう女子セブンズの価値を高めていくか。さらには子どもたちをいかに巻き込むか、あるいはテレビなどのメディア露出、ファン拡大、スポンサー集めである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

松瀬学の最近の記事