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エディーJ「すべてはW杯のために」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

いつもながら、ラグビー日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)の会見は興味深い。日本代表は目下、テストマッチ10連勝中。今秋のマオリ・オールブラックス戦の焦点を聞かれると、同HCは「すべてがワールドカップの準備。勝ち続けている流れを継続させていく中で、よりチーム力をアップさせていきたい」と話した。

7日。マオリ・オールブラックス戦の冠スポンサー「リポビタンDチャレンジカップ2014」の発表会見だった。マオリ・オールブラックスはニュージーランド先住民のマオリ族の血をひく選手による代表チーム。その強豪チームと、日本は11月1日(神戸)、11月8日(秩父宮)と2試合を行う。

日本はワールドカップ(W杯)では過去1勝21敗2分けで、1991年W杯での唯一の勝利以降、勝ち星がない。「ワタシはその歴史を変えたい」とジョーンズHCは言う。「来年のW杯の初戦、9月19日にブライトン(英国)で南アフリカと対戦する時、チームコンディションが絶対、ピークでないといけない。秋の試合もその準備の一環。からだを強くして、チームのバランスを見極め、心の準備もしていかないといけません」

ジョーンズHCのチーム作り、メンバー編成には一貫性がある。経験値を重視し、この3年間でもう8割方のW杯代表は頭の中では固めているそうだ。「セレクションは一貫性を持たせることが大事です。W杯で勝てるチームは選手のキャップ数がトータル600以上は必要です。テストマッチ経験が十分ないと、W杯では勝てません」という。

そこで秋のマオリ・オールブラックス戦。記者から「1戦目と2戦目はまったく違うメンバーでやるのでしょうか?」との質問がでると、「ホワイ?」と聞き返した。なぜ、そんなことを聞くのか、と言うのだ。

「もう、どの試合に関しても、W杯の最初の試合のつもりで戦っていく。メンバーのバリエーションを試すほどのスコッドはいません。35人を固め、1年間、W杯を念頭にした準備をしていく。相手がどういったチームかを考え、自分たちのゲームプランを立てる場合、どのメンバーがベストなのかをしっかり確認していく必要があります」

「例えば」とコトバを足す。ロックのポジションを挙げ、真壁伸弥、トンプソン・ルーク、ジャスティン・アイブス、大野均らの名前を並べ、「どのコンビがベストなのか見極めます」。その後、具体的な選手に関する質問が出れば、的確に選手の特徴を説明し、課題も口にする。先の菅平合宿の参加選手以外のプレーヤーに関してもしかり、である。いかに同HCがたくさんの練習試合を自分の目で確かめ、分析しているかがうかがえる。

マオリと2試合をした後、日本代表はヨーロッパに遠征し、グルジア、ルーマニアと対戦する。タイプの違うチームと戦うことはチーム強化にとってはプラスとなる。

「マオリは組織だったチームではない。セットピースにこだわらず、どこにでもボールを回していく。サモアに似ている。その一方でルーマニアやグルジアは正反対でセットピース中心、南アやスコットランドに非常に似ている。そういったチームにどうやって戦っていくかを見つけていきたい」

頭の中は、来年のW杯の1次リーグの対戦相手でいっぱいのようだ。ジョーンズHCは時折、朝5時からの早朝練習など、日に3度のハードな練習を代表選手に課している。スポンサーの大正製薬「リポビタンD」は栄養ドリンク。

「大正製薬は人々にエネルギーを与えてくれる会社です」とジョーンズHCは笑顔でリップサービス。

「我々、日本代表はもっと、これを飲まなければいけない。そして、これからは1日、4回、練習していこうかなと思っています」

冗談口調ながらも、ジョーンズHCの目は少しも笑っていなかった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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