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日本ラグビー、SR参入を「構造改革」の契機に。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

日本ラグビー協会はこのほど、南半球の強豪3カ国に拠点をおくチームが争う世界最高峰リーグ『スーパーリーグ(SR)』参戦に向け、主催者に申請文書を提出した。実現すれば、日本代表の強化とラグビー人気の復活につながるだろうが、日本ラグビーの『構造改革』の契機となりうるかもしれない。

SRは現在、ニュージーランド(NZ)、オーストラリア(豪州)、南アフリカの15チームによって編成されている。毎年2月から8月にかけて行われており、日本から田中史朗(ハイランダーズ)、堀江翔太(レベルズ)らがSRのチームに所属している。ことしは8月2日に決勝が行われ、ワラターズ(豪州)がクルセイダーズ(NZ)を下し、初優勝を果たした。

参加選手は原則、プロ選手。2011年にカンファレンス制が導入され、2016年には南アフリカのカンファレンスを3チーム増やすことになっている。既に2チームは南アフリカ、アルゼンチンが拠点のチームに決定しており、残る1チームについて、2019年ワールドカップ(W杯)を開催する日本が代表強化を目的とし、手を挙げたというわけである。

新規参入について、シンガポールを拠点とするチームがライバルという。ただ国際ラグビーボード(IRB)の世界ランキング(8月11日時点)をみると、日本の10位に対し、シンガポールは58位にすぎない。

シンガポールは、トンガ、サモア、フィジーの選手らを中心とした混成チームで参入を目指すとみられているが、ラグビー人口やファン層、人気度などを考えると、アジア初のW杯開催を控える日本が有利ではないか。

課題は、資金面とチームの移動の距離か。主催者側の最大の関心事である収益性については「シンガポール優位」と一部で報道されたが、それは日本からのスポンサー料、放送権料など、収益アップの交渉を有利に進めたい彼らの戦略ではなかろうか。

シンガポールが国内でSRを開催したいというのであれば、日本はシンガポールと協調し、何試合かをシンガポールで開くという手もあろう。香港で試合を開催してもいい。つまりは日本のチームをアジアの代表として位置付けるのである。

少し気の早い話だが、むしろSR参入の期待は、日本代表の強化に直結する日本ラグビーの「構造改革」にもある。それはトップ選手の一部プロ化であり、高校―大学―トップリーグという選手の進路の変化であり、試合システム・日程の見直しである。例えば、サッカーのごとく、高校を卒業した選手がプロとなり、そのままトップリーグや海外クラブチームでプレーする選択肢があってもいい。

SRに参加する日本チームをどう編成するか。目的が日本代表の強化ということであれば、同代表に準じたチーム編成となろう。SRの間、日本協会が選手と契約を結ぶことにし、30人程度のスコッドの半分はトップリーグのチームから代表クラス1人ずつを出向扱いとして出してもらう。残り半分は、高校を卒業したばかりの代表候補を集め、日本協会が選手契約するのである。

こうなると、SRを経験した高校卒業選手の何人かはその後、大学に進学するのではなく、トップリーグにプロ契約で進むか、海外のクラブチームに挑戦することになろう。結果、海外の強豪国と比べた場合、一気に実力の差が開く20歳前後の選手たちにタフな試合機会を増やすことにもなる。

あるいは、大学を休学し、SR参戦の日本チームに入る選手も出るかもしれない。要は選手の環境の選択肢を増やせるのではないか、ということである。

もちろん、大学ラグビーには大学ラグビーの価値を残す。でもトップ選手には松島幸太朗(桐蔭学園高―南アフリカ・クラブーサントリー)のような選択肢も可能にする。

また日本チームのSR参入が実現したら、日本選手権など現行の国内試合の日程の見直しも必要となろう。

SR参入の成否は10月までには決まる見通し。成功すれば、知恵を出し合い、2019年W杯、いや向こう10年、30年を考え、新たな仕組みをつくるのである。いずれにしろ、日本チームのSR参入が日本ラグビーを変える転機となるだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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