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強し、王者帝京大。早大の課題は。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

早大にとっては、よき試練である。大学ラグビーの夏合宿の大一番。昨季の全国大学選手権決勝の再現は、早大が大学5連覇中の帝京大のぶ厚い壁に跳ね返された。12-49の完敗だった。早大の主将、ロック大峯功三はため息をついた。

「帝京のプレーに絶対的な余裕を感じました。フィジカルの部分の差は縮まっているのですが、帝京にやりたいラグビーをやられてしまった。逆にワセダはやりたいラグビーをできませんでした」

この時期、まだメンバーも固まらず、チームの組織的な攻防は整備されていない。疲れもあるし、メンタル面も公式戦とは違うだろう。では、どこに注目するかというと、何より基本プレーの習熟である。ガタイの大きさやフィジカル、体力はともかく、接点での基本姿勢からレッグ・ドライブ(足のかき)、1歩前にでる意識、パススキル、アングルを変えるラン、パスしてからのフォローといずれも帝京大に後れを取った。

24日の長野・菅平高原。早大とて前半は悪くなかった。素早い展開から相手反則を誘発し、ラインアウトで優位に立つ。前半15分、スピーディーなライン攻撃から、左ウイング本田宗詩が鋭いランで左隅にトライを返した。本田の一度内に絞って、外に振り切る走りは天性のものか。

前半30分には、ラインアウトからのモールをうまく押し込んでトライを重ねた。12-7。このあたりまではスクラム、ラインアウトで早大が優位に立ち、ブレイクダウンでもそれなりに健闘していた。

だが、やはり1対1のコンタクトの差が大きい。ダメージを受け、少しずつ、パワフルな帝京大選手を倒すことができなくなってきた。必死のダブルタックルも、ずるずると相手の前進を許してしまう。帝京大のフッカー坂手淳史のパラフルな突進、SH流大のサイド突破、SO松田力也、FB重一生らの大幅ゲインを与え、連続トライを奪われてしまった。12-21でハーフタイム。

後半はもう、『負の連鎖』である。フロントローが代わったこともあってか、スクラムで押しこまれる場面もあった。前半に比べ、スクラム全体が高くなったのだが、これは帝京大有利のカタチだろう。

さらに痛かったのが、ラインアウトである。要所でノットストレート、キャッチミスを重ね、チャンスを逃した。これではアタックの時間が大幅に減ってしまう。当たり負けの疲れが足腰にきたのか、個々の姿勢も高くなって、タックルも弱くなるわ、ターンオーバーを許すわ、で悪循環をたどる。

目立たないけれど、早大と帝京大のフロントロー3人の走力の差、ディフェンス力の差、コンタクト力の差もおおきかった。

ただ、突き詰めると、1対1のコンタクト力の差が、大峯主将のいう「余裕の差」となって表れたのだろう。フィジカル、体格で劣っているのであれば、はやさと体力で勝負するしかあるまい。受けたらやられる。バックスもスピードと意図的な攻めが求められる。

「バックスのアタックも、相手を抜きにいくのではなく、かわそうとしているだけなんだよな」と、早大OBの元日本代表バックス、吉野俊郎さんは評した。

どういうことかというと、バックスはチャンスとみれば、アングルを変えて抜きにいかねばならないのに、この日の早大バックスは同じ方向に流れるだけの横移動のため、相手ディフェンスにコワさをちっとも与えないのである。接点でやられているからか、SO小倉順平もほとんど仕掛けていかなかった。

もっとも、大事なことは、この敗戦をどうシーズンに生かすかということである。前半30分の戦いをどう延ばしていくのか。両チームとも、やがてけが人が復帰してくる。どちらも持てる力を100%発揮したら、ゲームは拮抗するにきまっている。焦点は、どちらが自分たちのラグビーをより実践することができるかなのだ。

雪辱に燃える早大の後藤禎和監督は言った。「鍛練あるのみですね。課題は、後半、崩れてしまったことを反省し、どんなにしんどくても前半のパフォーマンスを維持できるだけのフィジカル面、精神面をつくりあげていくかでしょ」と。鍛練と、基本プレーの向上、創意工夫、チーム戦法の徹底である。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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