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「根底には愛」高校ラグビー4監督

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビーのある人生でよかった。晩夏の九州は福岡。高校ラグビー部の4監督の味わい深いトークセッションを聞いて、つくづくそう思った。山笠の熱気の残る博多の夏はよかねえ。山笠とおなじく「チームワーク」を旨とするラグビーもよかばい。

九州地区公立学校教頭会研究大会の記念講演が福岡国際会議場で開かれた。座談会方式で、九州を代表する高校ラグビーの4監督、福岡高の森重隆監督と東福岡高の藤田雄一郎監督、筑紫高校の西村寛久・前監督、修猷館の渡辺康宏監督が壇上に並んだ。

テーマが『原石を育てる~ONE FOR ALL』。「オモシロくてためになる」をコンセプトに2時間、聴衆は2000人ほどの小・中学校の教頭先生たちだった。

4人のトークには、ラグビーと生徒たちへの愛情に満ちていた。それぞれがスポーツから学んだものは、新日鉄釜石時代に日本選手権V7に貢献した森さんが「周りが喜んでくれることの喜び」、東福岡の藤田さんは「ご縁とありがたさ」、修猷の渡辺さんは「達成感を味わうための理不尽さ」、筑紫の監督をしていた西村さんは「自己犠牲の精神」だった。

森さんは62歳。藤田さんが41歳、渡辺さん51歳、西村さん48歳。西村さんは4月から、福岡県教育庁で勤務している。福高ラグビー部は大正13(1924)年創部の名門で、男子校の東福岡は過去、花園の全国大会で4度優勝し、ことしは春の選抜大会、7人制全国大会も制している。校風はバンカラ。

修猷は有名進学校で「質実剛健」「自由闊達」「独立自尊」を尊び、筑紫は筋金入りの「厳しさ」で毎年、強豪チームをつくりだす。

指導のとき、一番大事にしているものをキーワードで出してもらえば、監督20年の森さんは口ひげをピクつかせながら、「セッサタクマ(切磋琢磨)」と言った。選手もしかり、チームもしかり、ということだろう。福岡のレベルが高いのは、互いをレスペクトし、競い合っているからだと言うのである。

まっすぐなタイプの藤田さんは「小事大事」だった。「規律なき一流集団は、規律のある二流集団には勝てない、というコトバがあります。ちっちゃいことをおろそかにしないということを大事にしています」と。

実直な渡辺さんは「支える」で、ちょっぴりコワモテの西村さんは「信頼」だった。

森さんはこう、言うのだ。「この3人に共通しているのは、指導の根底に“愛”があることです。たとえば、コトバが少々汚くても、そこに愛があるから、子どもたちは納得しとると思う」。森さんも指導には愛があるでしょ、と声をかければ、「いや、愛というか、オレは面倒見がいいだけ」と笑いを誘ってくれた。

その後、伸びる選手の見極めや、長所の伸ばし方、短所の直し方、闘争心のかきたて方、生徒とのコミュニケーションのとりかた、いじめ問題、保護者の対応、女子部員の指導法…など、話題はあちらこちらに飛んだ。

驚いたのは、4人とも生徒の短所は気にしないということだった。藤田さんは「短所は直さない」と言った。

「短所は直すより、調整してくれと言っています。帳尻をあわせてくれと。3年間で短所を完全に直すのは無理ですから。長所が70点なら90点に、短所は30点から50点ぐらいにしてくれと言っています」

森さんが3監督に質問。「どうやったら闘争心がないやつに闘争心が出てくるか、教えてくれよ」と。「これ教わったら、福高は強くなって、修猷館や筑紫は屁(へ)よ」。場内、爆笑。森さんのトークで「へえ~」と思ったのは、保護者の話題で「昔の親はその高校のラグビー部を応援していたのに、この頃は自分の子だけを応援している。そんな親が増えてきた」と嘆いていた。小学校の運動会のノリなのだろう。

みんなが褒めたのが、東福岡のグラウンドや部室のきれいさ、である。そうじが徹底されており、森さんがかつて、東福岡をのぞいたら3年生の主将が便所そうじをしているのに出くわしたそうだ。「強いチームがそこまでしちゃいかんばい。汚いから、まだチャンスがある。そこに気が付いたら、まずかろうもん。そうじやあいさつをきちっとするようになると手が付けられないようになる」

ことし6月、全九州大会の福岡県予選の準々決勝で修猷館は東福岡に勝ち、57年ぶりに県予選で優勝した。じつはこれ、秋の全国大会の福岡予選の組み合わせ抽選に大きな影響を与えるそうだ。福高も筑紫も修猷も早いラウンドで東福岡と対戦する可能性が生まれた。森さんは言った。「これは、渡辺先生に責任をとってもらないと困る。抽選では、まず修猷がヒガシとあたるくじをひかんといかん。そして、勝たないといかんやろ」

藤田さんも誠実である。「うちが修猷に負けたら、こんなに福岡県全体が喜ぶんだということがわかりました」とジョークを口にしながらも、目は雪辱に煮えたぎっている。「もう負けたくない。絶対、引けません」

森さんが最後に明大の故・北島忠治監督のコトバを紹介してくれた。「前に出ろ」といつも口にしていたそうだ。

「どうしてかというと、前に出ると、力が蓄えられる。引いたらダメだ、自分の力にならない。相撲と一緒だというわけです」

試合でストッキングを下ろしていたら、北島先生にこう、叱られたそうだ。「服装は我れのためにあらず、相手に対する礼儀なり」と。

「おおお~。このおやじ、すごいって思いました。昔の人はいいこというねえ」

最後に会場の教頭先生たちへのメッセージを。キーワードで。

西村さん「愛情」

渡辺さん「信じること」

藤田さん「ストレスコントロールを」

森さん「人間が育たないとラグビー選手は育たない。人間的な教育を」

笑い満載の愉快なトークセッションだった。いまさらながら、ラグビーも教育も、子どもの指導に際して大切なものは「愛情」なのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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