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王者帝京大の苦戦のワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビーの大学選手権6連覇を目指す王者帝京大が、勝ち星なしの筑波大に思わぬ苦戦を強いられた。なぜかというと、FWが接点でラクをしたからである。一歩が鈍かった。岩出雅之監督は「スカッと勝てない時のほうが課題がたくさん見える」と余裕の表情だった。

「今日は、ゲームフィットネスがどうかな、というところがあった。(苦戦の原因は)2つ。ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)周りの動きにシャープさが少しなかったことと、(レフリーの判定)基準にアジャストできなったこと。次の早稲田大学には、しっかりと準備して臨みたいと思います」

個々の力量差は歴然である。しかも、筑波大は主力にけが人が続出し、ここまで3連敗だった。日本代表の福岡堅樹もいない。人間だもの。どうしたって、気の緩みが出たのだろう。接点勝負を仕掛けてきた筑波大にブレイクダウンで後手を踏んだ。

反則は、相手8個に対し、帝京大は13個(前半8、後半5)だった。ほとんどが「ノット・リリース・ザ・ボール」。タックル後の二人目のスピードが負けているため、相手優位のカタチになってしまう。微妙な判定もあったが、帝京大選手のボール・リリースが遅いと判断された。

ラグビーには、ラクなゲームなど存在しない。どんな相手でも必死でプレーしないと苦しい展開になってしまう。とくに接点でのファイトは不可欠である。心身の充実がモロに出る。前半終盤。ブレイクダウンのターンオーバーから窮地を招き、筑波大にトライを許してしまった。

攻めても、『我慢』がなかった。倒れた後の一歩が遅い。ゴール前に攻め込んでも、3次、4次の密集になると、バラバラになって、孤立してしまう。いつもの迫力満点の波状攻撃は見られなかった。

ハーフタイムでは、接点でファイトすること、レフリーの判定にアジャストすることを確認したそうだ。「ハーフタイムには?」と聞かれると、岩出監督は「大半がぼくのカツです」と笑った。「“カ~ツ”って。ははは。そう言いながらも、そんなに怒ってなかったんですよ」

王者は、すぐに修正する。FWがファイトする。後半序盤。中盤のスクラムからの一次攻撃でWTB磯田泰成が快足を飛ばしてあっさりと左隅にトライをあげた。これは、スクラムのプッシュがよかった。1番の森川由起乙からの押しで全体がぐぐっと前に出たから、バックスに勢いがついたのである。

苦しんだとはいえ、王者の強さは随所にでる。やはりFWはパワフルである。バックスも走らせるとこわい。対戦相手の立場に立つと、筑波大のやった接点勝負とボールポゼッションを大事にするのは番狂わせの条件だろう。さらにタックルの精度、セットプレー(スクラムとラインアウト)の安定もほしい。

帝京大は11月2日、早稲田の挑戦を受ける。SH流大主将は、岩出監督と同じ趣旨のコトバを口にした。「今日の80分間で出た課題を次の早稲田戦に向けて修正して、さらに成長していきたいなと思います」と。帝京大の強さのヒミツは現状に満足せず、常に進化しようと心掛けているところである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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