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朝練で王者復活めざす明治ラグビー

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

強豪チームは数あれど、こんなに朝早くから全体練習に励む大学はまれである。12日午前6時半。まだ薄暗い中、明治大学ラグビー部の練習ははじまった。「僕は4時半起床。築地の魚河岸と一緒ですよ」と丹羽政彦監督が冗談口調で漏らす。「学生たちがかわいそうです。でも、全員で一緒にやるためにはしょうがないんです」

東京・八幡山の明治大学グラウンド。雨は上がったけれど、人工芝が濡れ、空気は冷たい。ざっと1時間半。濡れた落ち葉を踏みしめながら、学生たちが駆け回る。迫力満点。時間の経過とともにからだがほぐれてくるようで、連係プレーのスピードも増していく。

グラウンドにはちゃんとした照明施設がない。だから、他大学のように夕方からの全体練習は難しい。これも時代だろう。授業出席をマストとした場合、全員が一緒に集まるとなれば、早朝しかないのである。日中、授業の合間に、それぞれ別個に筋力トレーニングメニューに取り組むことになっている。

寮の門限・消灯が夜11時。学生たちは朝5時半頃には目を覚まし、眠気マナコでグラウンドに出ることになる。勝木来幸主将は朝5時には起きて、風呂に入ってからだをほぐす。「(朝の練習では)からだを無理やり、動かしています」と笑うのだ。

「(朝練習の)いいところは、自分の時間が増えて、それぞれが、足らない部分をしっかりできるところです。悪いところは、モチベーションが上がらない人間もいることでしょうか。なかなか、みんな、100%で練習をやるといっても…。個人差があります」

これから、シーズンが深まって寒くなっていけば、けがのリスクも増えていくことになる。もっとも、丹羽監督によると、「からだのケア、体調管理は随分、できるようになっています。とくに4年生が率先してやってくれている。タイムマネジメントもできるようになってきました」という。

明治と言えば、元来、「おおらかさと豪快さ」が持ち味である。でも自己管理が求められる時代となり、朝の練習があるので、夜更かしはできなくなった。おのずと、規則正しい生活となる。丹羽監督が重んじる「自律」と「自覚」も芽生えた。

ひとことでいえば、「ディシプリン(規律)」である。今季の「S(ストレングス)&C(コンディショニング)」の充実も、学生たちにディシプリンがあればこそだろう。強度の高いトレーニングの積み重ねの結果、個々の筋力数値も確実に上がっているそうだ。

目下、明治は関東大学・対抗戦グループで無傷の5連勝をマークしている。よくぞ、この環境でがんばっていると思う。16日には、大学選手権6連覇を目指す帝京大に挑む。

明治は今季、セットプレー(スクラム、ラインアウト)が安定している。FWとバックスのバランスもいい。昨年より、プレーの精度、得点力が増している。FWが前に出て“生きた球”を出し、バックスがワイドに回せば、勝負はオモシロくなる。

丹羽監督は「アタックもディフェンスも二人目のリアクション勝負です」と言った。環境の差を、言い訳にはしたくない。自律と自覚の先には『王者復活』が見えている。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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