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新たな一歩、日野ラグビー

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

どのチームも、歴史はつくられていく。ラグビーのトップイースト・リーグで、日野自動車が日本IBMに66-10で圧勝し、4勝3敗とした。「66得点」も、「4勝」も、トップイースト5年目でチーム最多である。

「ひとつ、壁は破れました」と、日野の細谷直監督は喜んだ。15日の東京・駒沢陸上競技場。青空の下、バックスタンドの『己の限界を突破せよ!』との横断幕が冷たい風にはためていていた。

「選手たちは、いかにも楽しそうでした。躍動感があった。新たな歴史をつくり始めるステージに入った。これから、未知の世界に入っていきますけど、しっかりとチャレンジしていきたいと思います」

もう今季のトップリーグ(TL)昇格は難しいけれど、チームは着実に成長している。新しいフィジカルコーチを招いての筋力トレーニングの成果だろう、1人ひとりのからだが強くなっている。新加入のCTB山下大悟(前NTTコミュニケーションズ)や若手選手もうまく機能し、チームとしてトライを取り切る力がアップした。

この日は、トータル10トライ、失ったトライが1つだった。とくにスクラムで圧倒し、接点で優位に立った。認定トライを含めると、スクラムトライが2つ。フッカーの廣川三鶴主将は「スクラムでまず崩し、相手を黙らすことができました」と得意顔。

「スクラムも、チームも、まとまりがでてきました。苦しい局面でも、だんだん我慢できるようになってきました。でも、プレーの精度はまだまだ。しっかりフォーカスし、一歩一歩、積み上げていきたい」

チームが強くなってきたからだろう、応援団の数も増えてきた。ホームグラウンドでもないのに、ざっと100人。日野からの応援バスは満員だった。山下らの顔写真入りのうちわを打ち鳴らし、スタンドで声を枯らした。「いいぞ、いいぞ、ヒ~ノ!」「いけ、いけ、ヒ~ノ!」「ヒノ、ヒノ、ヒ~ノ!」

試合終了後、山下もスタンドの応援団に笑顔で手を振った。早大、サントリーで主将として活躍したカリスマ性は健在。17日には34歳となるが、どっこい、まだまだ元気である。

山下は「点数をとれることはいいことだと思います」と言う。

「自分たちから崩れることがなくなってきています。自分たちのアタックを積み重ねることと、精神的な我慢をし続けることをやっていけば、来年につながると思います」

どんなチームも積み重ねが肝要なのだろう。日野のトップイーストの試合はあと、2つ。敗戦の悔しさ、勝利の喜びが、チームの成長を促していく。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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