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日本SR参入に田中も安堵

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

日本ラグビーにとって、画期的な決定である。ラグビー南半球最高峰リーグ『スーパーラグビー』(SR)の日本参入決定を受け、日本ラグビー協会の矢部達三専務理事は「誇りと大きな責任を感じる」と語った。日本人初のSR選手のSH田中史朗(パナソニック)はニコニコ顔で、安ど感を漂わせた。

「僕が調子に乗って、言えることじゃないですけど、肩の荷が下りた感じです。これまで、チャレンジ、プラス犠牲というのがあったので、すごくよかったなあと思います」

SRとは、ニュージーランド(NZ)、南アフリカ、豪州の世界3強国の地域のクラブチームが参加。現在15チームだが、2016年からは日本のチームなど3チームが新たに加わることになった。

日本代表でもある田中はいわばパイオニア。2011年ワールドカップ(W杯)で1勝も挙げられなかったこともあり、レベルアップを期して海を渡り、2013年からNZのハイランダーズでプレーしている。以前から、日本代表のレベルアップのためには、チームとしてのSR参加を訴えていた。

「これからが日本ラグビーのスタートだと思っています。最初の1、2年はすごくしんどい戦いになると思いますが、それを乗り越えて、世界と戦えるチームをつくっていきたいと思います」

SRは、競技レベルはもちろん、コーチングやトレーニング方法、組織マネジメントも世界のラグビーをリードしている。日本代表の強化を主眼とし、日本代表クラスを主に編成される予定の日本チームの位置を聞かれると、166センチのからだで活躍するSH田中は「正直にいうと、15チームある中で下の方だと思います」と答えた。

「でも、力的に下にあっても、それをひっくり返せる能力はあると思います。はやいテンポは日本人のいいところ。力強さは世界の方が上なので、はやさで世界に対抗していけばいいと思います。まだ僕がメンバーに入るかどうかわかりませんが、日本としてはスピード感あふれるラグビーを見せていきたいナと思います。まず1勝。1勝でもできれば、世界が日本をもっと見てくれる。もっと、もっと日本のラグビーが発展すると思います」

SRの試合はオモシロい。強化だけでなく、人気アップの起爆剤としても期待される。テストマッチ(国代表戦)との違いを問えば、「全員が楽しんでいる感じがします」と言った。

「日本代表となると、楽しむより、勝つことが大事になる。SRだと、練習ではしんどいですが、試合になれば、みんな、楽しんでやる。勝った時には、さらに楽しむことができることになります」

SRの試合の魅力は。

「観客のみなさんも一緒になって楽しむことができることです。僕らの強化の部分もそうですが、(ファンが顔などに絵を描く)ボディペインティングや花火なども、SRの楽しさのひとつだと思います。そういう部分を広めていくことができれば、向こうのチームがきたときにさらに盛り上がると思います」

2016年3月のSR参入まで、あと1年4カ月しかない。最大の課題は、選手の待遇面か。現在の日本代表選手は、基本として所属企業からの出向扱いとなっている。SR参入の場合、田中のようなプロ契約選手はどうなるのか、あるいは社員契約選手は。さらにいえば、日本でプレーしているプロ契約の外国人選手は。

現在のSRでプレーする選手は基本としてプロ選手である。おそらく日本の参加チームは、プロ契約選手と社員契約選手の混成チームとなるだろう。代表同様、基本線は出向扱い、外国人プロは個別契約か。「それでいいと思うんですが」と29歳の田中は説明する。

「プロは人生をかけてラグビーをやっています。ケガしたときの障害の補償などもしっかりしておいてほしいと思います。そうじゃないと、企業も選手を出しづらくなるでしょう」

選手のコンディショニングに限っても、このほか、チームの拘束期間中の宿泊ホテル、からだのケア、練習環境など、クリアすべき課題は多々ある。ただ日本ラグビーにとって僥倖(ぎょうこう)なのは間違いない。トップ強化と人気アップをどう効果的に連動させていくのか。難儀ではあるが、幸せなチャレンジとなる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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