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エディーJ、W杯8強のための準備とは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビー日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)の“勝つ”チーム作りは明快である。まず目標を明確にする。勝負のワールドカップ(W杯)イヤー。「ターゲットはW杯の準々決勝進出。日本ラグビーに新しい歴史をつくる」と明言した。

5日の会見では、W杯代表の1次候補41選手を発表した。メンバーに驚きは、ない。リーチ マイケル主将(東芝)ほか、堀江翔太、田中史朗(以上パナソニック)福岡堅樹(筑波大)藤田慶和(早大)矢富勇毅(ヤマハ)らが並ぶ。キャップ(国別代表戦出場)なしが、宇佐美和彦(キャノン)ら4人。ケガで外れた山沢拓也(筑波大)アマナキ・レレイ・マフィ(NTTコム)は負傷が治れば、代表候補に入る見通しである。

例年より早めの代表候補発表について、ジョーンズHCはこう、説明する。「選手に意識をさせるため。早ければ早いほど、周到な準備をすることができる」と。

日本が世界の強豪国と比べ、有利な点は選手を比較的長期間拘束し、チームとしての準備を進めることができる点だろう。W杯までの8カ月間半の日程は、ジョーンズHCによって、練りに練られている。同HCにとっては、豪州代表HCだった2003年W杯、南アフリカ代表コーチの07年W杯に次ぐ、「W杯キャンペーン」となる。

今月13日からメディカルチェックなどが始まり、4月から宮崎で本格的な代表合宿がスタートする。W杯イングランド大会(9月18日開幕)までの活動期間は、ざっと120日にもおよぶ。試合は、今のところ12試合。4月にアジア勢相手に4試合を戦った後、7月、8月にはカナダや、W杯1次予選で対戦する米国が参加するパシフィックネーションズ杯の4試合に臨む。

8月には、W杯に出場するウルグアイと2試合戦い、9月上旬にイングランドに入る。そこで最後のウォームアップ試合として強力FWが売りのグルジアと対戦する。W杯初戦(9月19日)の南ア戦でチームをピークに持っていくため、逆算してのスケジューリングである。

ジョーンズHCは説明する。「テストマッチ1試合1試合、何を成し遂げたいのかをきちんと目標を描き、それぞれの試合を戦術的にやっていきたい。すべては、ワールドカップで勝つためです」と。

さすがだなと思わされるのは、既にW杯本番会場の芝生など施設をチェックし、準備試合の会場を考えていることだ。グルジア戦をやるグラウンドはグロスターのそれに近い。

「W杯(の1次リーグ)でジャパンは4試合やる。うち2試合が人工芝のまざったような天然芝のグラウンド。そういったグラウンドでできるのはジャパンにとってはパーフェクトに近い。それが南ア戦(ブライトン)とサモア戦(ミルトンキーンズ)。残りはグロスターのスコットランド戦とアメリカ戦。ここは雨が降ると、芝が非常に重たくなる。逆に雨が降らないと非常に硬い表面となる。非常に重たくなった芝は経験があると思うので、できれば、グルジア戦は雨が降らない硬いグロスターのような地面を体験できたらいいなと思っています」

さらには、4月には4泊5日でイングランドの試合会場や合宿地をチームで視察する。恐らく、これは過去のW杯ではやってこなかったことだろう。ジョーンズHC自らは昨年、初戦の地、ブライトンを既に訪ねている。

「実際、ブライトンを歩き、風を感じてきた。W杯では非常に熱気あふれる雰囲気になると思う。既に日本×南アのチケットは完売したと聞いた。ほとんどが南アファンになるかもしれない。ボッカ(南アの愛称)フラッグ一色となるかも。実際、試合会場を見て、そういった試合当日を想像しておくことは非常に大事なことだ」

そりゃ、経費はかさむ。でも、「勝つ可能性につながることはなんでもやっておきたい」とはジョーンズHC。

ことしのW杯がこれまで以上に注目を集めているのは、日本代表の躍進に加え、19年W杯が日本で開催されるからである。

もちろん、ジョーンズHCの使命はことしのW杯で好結果を残すことだ。そのために3年間、準備を重ねてきた。19年W杯については「正直、自分の責任ではない」と前置きし、こう続けた。

「自分のプロジェクトは、日本独特のプレースタイルをきちんと確立すること、日本の人たちが誇りに思えるチームをつくり上げることです。ファンの方々には、ジャパンを見て、これが自分たちのチームだと感じてほしい。日本という国をラグビーの世界地図に確固たる位置付けをしたい。子どもたちにラグビーをしたいと思わせたい」

「また2019年に日本でW杯が行われた時、日本の人たちに自分たちもチームの一員だと感じてほしいのです。W杯を開催するというのは、その国の人たちが何らかの形で参画して、1つになっていかないといけない。ファン、メディア、国内のラグビーチームの協力が必要です。ボランティアも。すべての人々がひとつになってやっていかないとW杯は成功しません」

同感である。「もっとも」とジョークで締めくくった。「わたしはその頃(2019年)、もしかしたら、沖縄のビーチでくつろいでいるかもしれません」と。

自国開催の19年W杯に弾みをつけるためにも、“エディージャパン”は今年のW杯で8強入りを狙う。そのため、ジョーンズHCも、選手もハードワーク(努力)を続けていく。50分余の会見中、同HCは10回以上も「ハードワーク」という言葉を使った。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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