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帝京大、6連覇へ全部員一丸

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

青色と赤色と白色のコントラストが鮮やかだった。雲ひとつない青空の下、グラウンド脇の机には深紅のジャージが並び、帝京大の岩出雅之監督が真っ白な塩をまいていく。恒例のジャージ渡しの儀式である。

ラグビーの全国大学選手権決勝を翌日に控えた9日、東京都日野市の帝京大のグラウンドだった。厳かな雰囲気の中、岩出監督が背番号を言って、決勝戦メンバーひとりひとりにジャージを渡していく。「3番」の東恩納寛太は感極まって、目に涙を浮かべていた。

「24番」と同監督が言うと、周りを囲んだ試合メンバー以外の部員がそろって「ハイッ」と大声を張り上げた。試合メンバーは23人。当然、背番号24のジャージは、ない。でも部員142人全員がジャージを着て、ひとつになって戦おうという意味だろう。

最後が「9番、キャプテン」の流大(ゆたか)主将だった。主将が決意を表明する。「多くの人の支えがあって、ここまでこられた。決して楽しいことばかりじゃなかった1年間を、部員全員で乗り越えてきて、今がある。明日は、試合メンバーだけでなく、全員で帝京のプライドをグラウンドの中で表現しよう。筑波をタックルして、からだを張って、走って、圧倒しよう。最後、全員で笑おう」と。

決勝戦では、前人未到の6連覇の偉業がかかっている。相手は勢いに乗る筑波大。秋の対抗戦ではブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で苦しんだ。筑波大バックスには、日本代表のWTB福岡堅樹がおり、スピードはある。

「相手も必死」と流主将。「セットプレー(スクラム、ラインアウト)がカギとなると思うので、FWに頑張ってもらって、あとは粘り強くタックルする。1年間かけて作りあげてきたダイナミックなラグビーをやりたいなと思います。最後に一つになれば大きな力になる」

決勝戦は、国立競技場の建て替えのため、午後2時半、東京・味の素スタジアムでキックオフされる。同スタジアムの印象を聞かれると、岩出監督は「陽があたりにくく、風はあまりないのかな。その影響で芝があまり根をはっていない気がしますね」と漏らした。

おそらく、足場がゆるければ、スクラムやブレイクダウンなどFW戦の攻防がより試合展開に影響を与えることになるだろう。

「WTB福岡対策」を聞かれると、岩出監督は微妙な言い回しをした。「チャンスを与えないで、チャンスをもらえるゲームにしていく」と。つまり相手バックス、とくに福岡に生きた球を出させないということだろう。その前のパスプレー、その前のブレイクダウン、その前のセットプレーで圧力をかけ、相手にリズムをつくらせない。

安易なキックはせず、カウンター攻撃の機会も与えないということだ。持ち前のフィジカルの強さ、パワフルなFWの力で圧倒する。シンプルにFWが前に出て、スピードあるバックスがボールを大きく動かしていく。勝負のポイントはスクラムとブレイクダウン、プレーの精度である。

グラウンドにはほどよい緊張感と自信が流れていた。V1の前日との心境の違いを聞かれ、岩出監督は「前日の心理は意外に同じですよ。でもレベルがちがう。チームのレベルが」と言って、青空を仰いだ。

「空が晴れているというのは、どこか我々の気持ちを晴れさせてくれる“天命”も感じます。(大学選手権の)頂上を目指すわれわれにとっては、雲一つない気持ちでいます。あとは上るだけです」

雲とは不安を指すのだろう。顔には選手たちへの信頼と自信があふれる。6連覇の偉業まで、あと1つである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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