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ラグビー界のレジェンド、W杯開催決定の釜石でプレー続行

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビー界のレジェンド、43歳のロック、伊藤剛臣が2015年度もトップイーストの釜石シーウエィブス(SW)でプレーを続行することが決まった。1年ごとの契約選手としてプレーしてきた伊藤は「みなさんのお陰で今年もプレーさせていただくことになりました。ワールドカップ(W杯)開催地に釜石が決まり、次は僕らの番だと思います」と、トップリーグ(TL)昇格に意欲を燃やした。

14日の『東北&クライストチャーチ 復興祈念チャリティイベント2015』のトークショーでのことである。昨季の最終戦(TL入れ替え戦)の後のファン感謝会で「サポーターが選ぶSWの年間MVP」に選ばれ際、「来年も頑張ります」とつい口にしていたが、このほど、釜石SW側との話し合いで契約続行も正式に決まった。

伊藤が神戸製鋼を辞め、釜石SWの一員となったのが、震災後の2012年春だった。「6月、初めて練習に出た時」と、しみじみと振り返った。「練習が終わったら、サポーターの1人のおじいさんが、“伊藤君、こっちにきてくれ”と言われました。“渡したいものがある”と」。

そこで、ひと呼吸。「ワカメをひと袋もらったんです。“三陸でとれた日本一うまいワカメだ”と。その時、ああ、釜石に来たんだなと思ったんです」と会場の爆笑を誘った。

その後は、練習も試合も全力投球してきた。昨季は最後の入れ替え戦こそ、ケガで出場できなかったが、13試合に先発し、すべてで80分間フル出場した。年齢を感じさせない運動量、激しさでチームを引っ張った。

「この1年間も、“これが最後の練習なんだ”、“これが最後の試合なんだ”と思って、やってきました。(釜石の)山と海と川からパワーをもらっています」

釜石市は今月2日、ラグビーの2019年W杯開催地に決まった。伊藤は東京のレストランで朗報を聞いたそうで、「すごくうれしかった。テンションあがって、酒を相当飲みました」とまた笑わせた。

「みなさんと一緒にワールドカップを盛り上げていきたい」。トークショーの後、雑談をすれば、伊藤は「感謝です」と繰り返した。「ありがたいことです。今年もがんばります。また楽しみができました」

日本代表キャップ「62」の伊藤は4月には44歳となる。あの日本選手権7連覇の“北の鉄人”、新日鉄釜石の流れをくむ釜石SWに移って4年目。19年W杯釜石開催成功のためにも、釜石SWのTL昇格はマストだろう。伊藤が精神的支柱となって、チームをTL昇格に推し進めていくことになる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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