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タグラグビーでココロおおきく

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

おおきなココロを持った子に育てる。これが、タグラグビーの浦安ラグビースクールの文化である。日曜日。その卒業イベントをのぞけば、からだだけでなく、ココロも大きくなった子どもたちが泣いて、笑っていた。

千葉県浦安市の浦安ラグビースクールは先の全国小学生タグラグビー選手権に2年連続で出場し、ことしは6位に躍進した。部員は幼稚園児から小学校6年生までの男女、約100人である。同スクールの鈴木海太校長はしみじみとこう、漏らすのだった。

「このクラブの最大の長所は、人と人のつながりだと思っています。昨年のメンバーから6年生が15、16人抜けて、ことしは(全国大会は)難しいなと思っていたら、どんどん伸びていって、とくに年明けからぐっぐっとチーム力が上がっていきました」

まったく、子どもたちの可能性は無限である。親たちがコーチ役を務め、毎年、まとまりのいいチームができあがる。もちろん、みんなボランティアだ。48歳の鈴木校長は慶大ラグビー部OBで日本航空勤務。仕事のない土日はほとんどラグビーに費やしてきた。

この日は東京湾岸の総合公園で朝から練習し、昼にはバーベキュー、午後の2時半頃から卒業イベントがはじまった。子どもたちが芝生にぺたんと座り、周りを親たちが立ってぐるっと囲む。

ちょっぴりビールでほおを赤らめた鈴木校長が6年生9人に“卒業証書”を手渡した。おやじギャグあり、冗談ありの贈るコトバに、笑い声が冷たい潮風に乗る。拍手、喝さい、歓声。別れを惜しんで、つい涙する子どもの姿もあった。

いいなあ。ラグビーって。いいなあ。子どもって。フランス代表の元主将、ジャン・ピエール・リーブのコトバを思い出す。<ラグビーは少年をいち早くオトナにし、オトナにいつまでも少年のココロを抱かせる>。いまや少女にもこれは、あてはまる。

“卒業証書”のあと、特別賞も渡された。広島東洋カープの山本浩二ファン、背番号「88」をつけた鈴木校長が、「昆グラチュエー賞(コングラチュエーション)」と書かれた賞状を持って、声を張り上げた。

「全国大会には24チームが参加しました。その中で、2年連続で、親子で参加したのは全国で初めてでした。えっ? 確認したのかって? そんなこと、してません。たぶん、そうでしょ」

爆笑の渦の中、42歳の昆勇二コーチ、その長男、小学校6年生の祐吾くんの親子がそろって、賞状を受け取った。これまた拍手。「おめでとう~」の声が沸き上がった。

いつもは寡黙な父が息子の成長を認める。高校時代にはラグビー部所属。コトバに愛情が満ちあふれていた。

「ユウゴは泣き虫でした。ひとりで寝られないくらいの泣き虫でした。でも、ラグビーをやって変わった。けがをしても、がんばった。ことしはキャプテンとして、チームをよく、まとめました。みんなの前で話をするのにも、慣れたみたいですね」

祐吾くんは“卒業証書”をもらったあとのスピーチでは、思わず泣いてしまった。左手のコブシで何度も顔をごしごしふいた。

「自然と(涙が)出てきたんだ」と、祐吾くんは言った。6年間、コーチの父と一緒に練習した。最後は腰痛に苦しみながらも、全国大会には出場した。「楽しかった?」と聞かれると、「うん、楽しかった」と笑顔で答えた。

「なんか、友達がいっぱいできたし、仲間の大切さがわかった。あと、声を出す大事さも。キャプテンになって、スピーチのチカラもついたよ」

タグラグビーは1チーム5人。チームワークが大事、だれもさぼらず、仲間と助け合わないとまず、勝てない競技である。「仲間の大切さ」を学んだと12歳は繰り返すのだ。

夢が「プロのラグビー選手か宇宙飛行士」という。4月からは中学生。都内のラグビースクールに入ろうと考えている。同じ楕円球でもタグからラグビーに変わる。

「ラグビーになったとしても、タグの思い出とか、学んだことを大切にして、やっていきたいなと思うんだ」

旅立ちの季節。別れの季節、出会いの季節。ぬくもりのある卒業イベントだった。これもまた、子どもたちの宝物となるのだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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