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「花園出場枠」増加に話題沸騰

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

高校の「部活」はいいものだ。入っていてよかった。五十を超えて、つくづくそう思う。3日夜、都内某所で福岡・修猷館ラグビー部OB会東京支部の「新人歓迎会&OB懇親会」かあった。話題の中心は、いつものごとく、「ことしは“花園”に行けそうか」である。

今回は、その話題の熱気がちょっぴり強かった。なぜかいうと、「花園」、つまり全国高校大会(東大阪・花園ラグビー場)に福岡県から2校が出場できる可能性が出てきたからだった。全国高等学校体育連盟(高体連)と日本協会は本年度の第95回大会に「4校」の記念大会枠を設け、55校に増やすと発表した。その枠の1つは九州ブロックにも振り分けられ、まだ決定はしていないけれど、前回高校日本一の東福岡高がいる福岡県が「2枠」となる可能性もある。

もちろん、修猷のOBとしては、「もう福岡やろもん」と言いたくなる。長老OBからは、「そもそも福岡から1校というのがおかしかとよ」との声もでる。繰り返すけれど、まだどの府県に記念大会枠が振り分けられるかは決まっていない。

OB懇親会には、福岡から遠路はるばる、修猷館ラグビー部OBクラブの安部直幸会長、渡辺康宏監督も駆けつけた。「ことしは福岡から2校?」と水を向ければ、渡辺監督は「まだ決まってませんから」と言葉を濁した。

「でも、やるからには福岡県ナンバーワンを目指したいし、日本一を目指したい。花園に行くなら、一番になっていきますよ。生徒には、一番を目指そうと言っています」

そりゃそうだ。ハナから「福岡2枠」を期待して、2番狙いなんて、ラグビー精神、いやスポーツマンシップに反するというものだろう。監督の意気やよし、である。

ただ、ターゲットの置き方でチーム作りは変わってくる。好素材ぞろいの東福岡高にひと泡食わすチーム作りと、東福岡高以外のチームになら負けないチーム作りは微妙に違うのである。長所を伸ばすか、短所を克服するか。攻撃を磨くか、ディフェンスを強化するか。フィジカルアップや体力、スキルアップ、連携強化といった基本は一緒だけれど。

先の九州大会の福岡県予選の結果は、東福岡が優勝し、2位は筑紫高、3位修猷館高、4位福岡高だった。このほか、東筑高、東海大五高、小倉高といった高校も力はある。もしも福岡県から2校出場になるとすれば、全国大会の県予選の組み合わせが大きな意味を持つ。

いずれにしろ、修猷は修猷のチーム強化にまい進するしかあるまい。今年のチームのキーワードは『破壊』である。そのココロは。渡辺監督が説明する。

「弱いと言われていた評価を壊してしまいなさい。ヒガシ(東福岡高)を破壊しなさい。筑紫や福岡も破壊しなさい、といったところでしょうか」

ことしのメンバーは中学時代の実績はあまりないものの、「タックルと集散はいい」という。要はひたむきなのだ、まじめなのだ。何事にも一生懸命なのだろう。こういったチームはまとまりやすく、ぐんと強くなる。

修猷館ラグビー部はことし、創部90周年である。現役は当然として、OBも「花園出場」に懸けている。みんなが、勝ちたい、勝ちたい、勝たせたい、と願っている。年ごとのチーム力の強弱はあろうが、「勝ちたい気持ち」の積み重ねこそが伝統といってもいい。

最後にひとつ。今回の記念大会枠がどの府県の増枠となるかは各ブロックの高体連ラグビー専門部が決めることになっている。各府県予選の決勝の後の11月下旬という方針だが、それは変だろう。予選決勝の点差や内容で府県予選の準優勝同士を比較するのには無理がある。

全国大会予選前に増枠の府県を決めるべきじゃないか。そうじゃないと、高校生ラガーに余計な精神的負担を与えることになる。予選の大きな目的が花園出場なのだから、その予選前に代表枠を明確に示す。予選にのぞむ高校ラグビー部の立場に立てば、そちらの方がいいに決まっている。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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