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W杯・新国立断念「危機こそ、チャンスである」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

なぜ、こうなってしまったのか。誰も責任をとらないと何が起こるのか。たぶん安倍政権の支持率稼ぎだろう。新国立競技場の建設計画の「白紙撤回」が決まり、2019年ワールドカップ(W杯)での新国立使用は不可能となった。

正直、それはないだろう、と思う。一ラグビーファンとして、話題の新しい8万収容のスタジアムでW杯の試合をやってほしかった。でも、総工費高騰のあおりを受けて、工期が遅れ、2019年9月開幕のW杯日本大会での使用は無理だという。

ただラグビーW杯だってみんなに祝福してもらいたい。世論の反発を受け、「悪者」にはなりたくない。残念だけど、この決定を受け入れるしかないだろう。

土曜日、何人ものラグビー仲間から携帯に電話をもらった。メディアの人もいた。新国立を使えなくなるとラグビーW杯はできなくなるのか? どういう影響が出るのか? どうすればいいのか? 安藤忠雄さんじゃないけれど、それはワタシも聞きたい! 

でも、あえて余裕をかまし、笑って「大丈夫ですよ」と返した。自虐的ではあるけれど、これでラグビーW杯の認知度が上がったじゃないですか。ピンチはチャンスという言葉があるじゃないですか。危機こそ、チャンスなのです、と。

新国立では既にW杯の開幕戦と決勝戦が決まっていた。これがダメになった。2019年ラグビーW杯日本大会組織委員会はまず、怒っているであろう国際連盟の「ワールドラグビー(WR=前・国際ラグビーボード)」に事情と経緯を説明し、理解してもらわなければならない。その上でWR、開催自治体と協議し、W杯のメイン会場の代替地を探さなければならない。

キャパシティーや施設を考えると、収容7万2千人の横浜国際総合競技場(日産スタジアム)が有力か。いっそ、サッカー専用スタジアムの埼玉スタジアム(収容6万4千人)を使わせてもらったらどうだ、との意見もあった。でも、冷静に考えれば、まずは開催自治体の東京都の中で代替地を探すのが妥当ではないか。

東京でとなると、調布市の味の素スタジアム(収容5万人)となるだろう。ここはサッカーメインの多目的スタジアム。大幅改修し、芝を張り変え、仮設を加えて6、7万人に拡大する。そうすれば、W杯のメインスタジアムとして使えるだろう。

また、あるラグビー仲間のアイデアだけど、ラグビー専用の秩父宮ラグビー場(収容2万5千人)の解体・撤去を取りやめ、大幅改修するのはどうだ、という。目下、東京都と日本スポーツ振興センター(JSC)、明治神宮では、2020年東京五輪の際にここを再開発するとし、秩父宮ラグビー場を撤去し、神宮球場の跡地に新ラグビー場を建設する計画となっている。

これを新国立計画のように「白紙撤回」してもらい、“ラグビーの聖地”といわれる秩父宮ラグビー場を大幅改修し、4万規模の新スタジアムにするという奇抜なアイデアである。建築の専門家ではないのでよくわからないが、たしかにこれなら3年間ほどの工期でやれそうではある。

で、メイン会場は横浜国際総合競技場に譲るとして、カテゴリーAクラス(4万人以上)が条件となっている準々決勝やプール戦の日本の試合などをやるっていうのはどうでしょう、というのだった。

いずれにしろ、ここは日本の建築技術の高さやラグビー界の底力の出しどころである。W杯をどう告知し、どう価値を高めていくのか。2019年W杯日本大会組織委員会の嶋津昭事務総長の言葉通り、「災い転じて福となす」とするしかない。

だって、ラグビー日本代表は海外でがんばっている。ただいま日本代表は米国でのパシフィックネーションズ杯でカナダ代表に20-6で快勝したばかりである。みんなでラグビーを、W杯を盛り上げていくしかないのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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