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レジェンド、タケさん健在

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

釜石の夏といえば祭りの『釜石よいさ』、復興のシンボルといえばラグビーの釜石シーウェイブス(SW)。釜石よいさが開かれた8日、釜石市球技場(松倉グラウンド)では、釜石SWが秋田ノーザンブレッツに54-12で圧勝した。ラグビー界のレジェンド、44歳のロック伊藤剛臣もフル出場し、よいさの踊りのごとく軽快に動き回った。

「体調? いいっすよ。44歳です」と、タケさんこと伊藤は充実感ある笑顔を浮かべる。けが人が戻ってきたこともあるだろう、釜石SWはようやくチームがまとまってきた。とくにスクラム、ラインアウトのセットプレーとブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)。ふたり目が素早くからだを寄せて、テンポよくボールを出し続けた。

よく見れば、タケさんの動きもブレイクダウンの中で効いている。狡猾である。44歳という年齢をまったく感じさせない運動量でチームを乗せた。いやあ、若い。タフな30歳フランカー、佐伯悠は冗談口調でベテランをたたえる。「タケさんはバケモノですよ」

もちろん天性もあろうが、タケさんはコンディショニングに注意する。練習では手を抜かない。たとえば午後7時の練習開始なら、午後5時ごろにクラブハウスに来て風呂に入り、入念なストレッチに取り組んでからグラウンドに出ていく。

タケさんは「プロですから」とさらりと言う。「ええ、プロ契約ですから。仕事ですから。自分こそ、80分、試合に出させてもらって光栄です。それぞれ個人のレベルが上がって、チーム力も上がってきました」

トップイーストの釜石SWは昨季、トップリーグ(TL)昇格門前までいった。3月には本拠釜石が2019年ラグビーワールドカップの開催地に決まった。今季は新戦力も加わり、TL昇格への期待も膨らんでいる。選手たちも期待はひしひしと感じている。

タケさんの目標は今季も「日々向上」である。

「目の前のワンプレー、ワンプレー、1試合、1試合、1日、1日を100%で取り組んでいきたい。自分としては日々向上、チームとしては(TLに)上がるようやっていきたい」

繰り返すけれど、44歳。タケさんの頑張りもまた、釜石復興の「光」である。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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