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ラグビーW杯機運「釜石らしい大会を」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
新スタジアムの土台造り(奥)が進む鵜住居地区(2016年2月20日撮影)

東日本大震災から、まもなく5年目を迎える。ラグビーの2019年ワールドカップ(W杯)日本大会の開催地の決定からは1年。20日、「ラグビーのまち」といわれる岩手県釜石市でW杯に向けたタウンミーティングがあった。「市民総参加の、ぬくもりのある釜石らしい大会に」と機運を高めた。

ざっと100人の市民が集まった。ホスト側として、2019年W杯日本大会のアンバサダーでもある釜石シーウェイブス(SW)の桜庭吉彦ディビジョンディレクターも出席した。昨年のW杯イングランド大会での日本代表の活躍もあって、桜庭さんは「やはりラグビーに対する認知度が非常に上がりましたね」と笑顔を浮かべた。

「ワールドカップへの関心度も変わりました。さらにラグビーを理解してもらうため、実際にラグビーの(試合の)現場に足を運んでもらう工夫や仕掛けをつくっていきたい」

まちの復興も着実に進んでいる。W杯用スタジアムの建設予定地、鵜住居(うのすまい)地区では土台造り、土地の造成工事が急ピッチで進んでいる。スタジアムの基本設計も終わり、2016年度には本格的な建設工事に移る予定である。

スタジアムの整備費用の約30億円の大方を賄う目途も立ちつつある。「釜石市ラグビーこども未来基金」の寄付金は1億4千万円を突破した。特にプレハブ仮設住宅に住む人々などをまきこみ、どう市民全体を盛り上げていくのかがW杯成功のカギを握る。

まちの盛り上げでいえば、地元の釜石高校が春の選抜高校野球大会に「21世紀枠」で出場することになった。「これも、まちが元気になる要素ですね」と桜庭さん。

さらに今年は「希望郷いわて国体」のラグビー競技(7人制)の成年男子、女子が釜石市の釜石市球技場(松倉グラウンド)で開催される。市民がラグビーに触れる機会が増えるとあって、桜庭さんも「流れはいいです」と手応えを感じている。

もっとも、釜石市民の一番の期待は、現在、トップイーストに所属する釜石SWの活躍である。トップリーグ昇格である。

「チームは着実に強くなっています。間違いなく、19年には上(トップリーグ)に入ります。それが何よりの地域の盛り上げにつながるでしょう。ワールドカップだけじゃなく、ラグビーという競技の情報発信を担っていくことは、我々の責任だと思っています」

桜庭さんら、まちのラグビー関係者にとって、ラグビーW杯がゴールではない。ラグビーでまちの活性化にどうつなげるのか。復興を加速させ、ふるさとへの自信と誇りをどう取り戻すのか。あくまでW杯を契機とし、「ラグビーのまち」の復興とその先のまちの活性化を期待しているのだ。

冷たい雨が降る20日の深夜。釜石市のラーメン屋の狭い店内で熱烈な釜石SWの支援者である某病院院長が唐突におおきな大漁旗を振り回した。

「カ~マイシッ!カーマイシッ!」

釜石コールにつづき、釜石SW応援歌の大合唱。いやー、泣けるシーンだった。課題は山積ながらも、ラグビーのある生活、W杯を迎える喜びに浸らせてくれたのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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