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サクラセブンズ、リオ五輪に向け鍛錬つづく

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
強化合宿がつづくサクラセブンズ(撮影は3月)(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

過酷な鍛錬がつづく。リオデジャネイロ五輪で金メダルを目指すラグビー7人制女子日本代表『サクラセブンズ』候補が15日、沖縄合宿を終え、休む間もなく、オーストラリアでの強化遠征に向け出発した。

夜。乗り換えの羽田国際空港で浅見敬子ヘッドコーチ(HC)をつかまえれば、顔には疲労感と充実感が漂っていた。

「だんだん、(チームが)よくはなってきている。我々としては走ってきているということを武器にしているので、その部分をしっかり生かしていきたいと思います。まだまだ、(選手たちを)競争させるつもりです」

候補選手たちは沖縄で、走って、走って、走り続けた。その量は「世界一のハードワーク」と言ってもよい。加えて、アタックでは少し、アクセントを加えようとしている。浅見HCが説明する。

「数的優位を一層生かせるよう、約束事をつくって、(相手ディフェンスを)崩していくこともやっています。つなぎのところで、ちょっと“ガット”を入れているんです」

ガットとは当然、テニスラケットのガットや、「GATT(貿易と関税に関する一般協定)」のことではない。ラグビー用語でガットといえば、手渡しのつなぎパスをいう。英語の俗語で「胃袋」を意味し、フォローする選手の胃袋にボールを入れるよう、ボールを確実に渡す動作を指す。ボールをもらう選手は前傾姿勢となり、腕を上下に挟むようにしてもらい、突破していく。

いわゆるボールを放るパスプレーではなく、縦突破のつなぎである。もらう選手が後ろのほうからサポートすれば、ボールをもらえない場合、そのまま押し込んでラックをつくってもいい。沖縄では男子相手の試合でも効果を発揮し、浅見HCは「非常に前向きに考えています」と手ごたえをつかんでいる。

ただガットは15人制ラグビーでのプレーが普通で、セブンズではあまり、見たことがない。「縦のつなぎのバリエーション」を増やそうという狙いのようで、加えてガットだとパスミスが減ることにもなる。

リオ五輪では世界トップクラスが相手となる。そのひとつが今回の遠征先の豪州代表である。個々の能力が高く、スピードもパスの技術も持ち合わせている。おまけにタックルしたあとの動作もはやくてうまい。日本が普通にボールを回していっても、ディフェンスラインを突破して大幅ゲインすることは難しい。だから、ガットを絡めようというのだろう。ただ前提はサポートプレーが増えるため、相手より走り回らないといけなくなる。

つまり選手たちの運動量がカギとなる。浅見HCがつづける。

「彼女(豪州)たちのほうがスピードと余裕がある。日本より一枚上手の部分があるので、私たちはがむしゃらに走らないといけなくなる。だから、相手のテクニックを凌駕するぐらいの走り方と激しさでやっていかないといけないと思っています。ひとりがぶつかっても、そこに二人目がはやく寄ってということを繰り返して、狭いエリアで大事にやっていこうと考えています」

豪州では同国代表と3日間の実戦も予定されている。リオ五輪で「金メダル」を目指すサクラセブンズにとっては、よき腕試しの場となるだろう。候補選手にとっては「選別の時間」が近づくとあって、より熾烈なポジション争いが繰り広げられることになる。

サクラセブンズは着実に力をつけてきた。不運にも怪我で離脱する選手もいれば、怪我から復帰する選手もいる。ハードワークの中、機会あるごとに残酷な“ふるい”にかけられては、泣き、あるいは安堵し、最強チームが編成されていく。

なぜサクラセブンズは強くなっているのか、と素朴な疑問をぶつければ、浅見HCは「やっぱり、(練習)量じゃないですかね」と言った。

「以前は、(女子ラグビー選手は)圧倒的に、ラグビーをする時間と場所がなかったんです。それが変わりました。高校生の部活や大学生のクラブ活動で毎日やっているようなことを、私たちは(毎日)倍にしてやっているわけですから。強化費をいただいているので、強くならないと(日本協会に)大変申し訳ないですよ」

そりゃそうだ。オリンピック大会では、その国の競技の総合力が試される。日本ラグビー協会の支援、ラグビーファンの応援、ラグビーの競技人口と土壌、そして何より選手たちの才能と情熱の総量の勝負である。

あとリオ五輪まで約50日。コワいのは選手の怪我か。浅見HCは「最後の最後までどこのチームもハラハラするところがあるんだと思います」と漏らした。切磋琢磨、戦術・戦略の落とし込みのほか、コンディショニングもメダルへのカギを握ることになる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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