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サクラセブンズに届け、タグラグビーの子どもたちの声援

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
タグラグビーの指導に汗だくの鈴木雅夫さん

ああ、ここに指導者の情熱がある。リオデジャネイロ五輪に出場する7人制ラグビー(セブンズ)の日本代表女子『サクラセブンズ』の日本出発を翌日に控えた25日、横浜市鶴見区の入船小学校でタグラグビーのイベントがあった。暑い。せみ時雨のなか、子どもたちの歓声が飛び交っていた。

なんのイベントかというと、“タグラグビーのおじさん”こと、タグ指導者の鈴木雅夫さんは「リオ五輪の壮行会」と言った。

「彼女たちはいないけど、壮行会としてやっているんです。あの子たちの原点はタグなんで。(リオ五輪を)応援しようと思って、みんなに集まってもらったんです」

彼女たちとは、鈴木雅夫さんが目いっぱいの愛情を持って育て上げたリオ五輪代表の鈴木彩香(アルカス熊谷)、山口真理恵(ラガール7)である。加えて、小出深冬(東京学芸大)、三樹加奈(アルカス熊谷)である。タグラグビー出身の4人の代表選手は出発直前で不在ながら、炎天下の3時間、あこがれのサクラセブンズを夢見て、子どもたちは砂ぼこり舞う校庭を思い切り走り回った。

ざっと100人。中には、鈴木彩香が世話になったことのある香港のクラブチームの子どもたちも参加していた。これぞ、草の根の国際交流か。惜しくも、代表漏れした鈴木実沙紀(東京フェニックス)もはつらつプレーで、リオ五輪代表へのエールに変えた。汗だくで駆けまわる子どもたちの澄んだ声と瞳にはまぶしい未来があるのだった。

なんといっても、鈴木雅夫さんの全力プレーは圧倒的だった。よほど負けん気が強いのだろう、試合では小学生相手にも手を抜かず、駆け抜けていく。57歳とは思えぬ脚力。いつも明るい、これがスゴイ。

陽ざしが強いから、ひっきりなしに休憩をとり、子どもたちはビニールプールにためた水をじゃぶじゃぶかぶる。熱中症対策は怠りがない。きゃあきゃあ言い合いながら、頭に水をぶっかけては、日本の子どもも、香港の子どもも、男の子も、女の子も、楕円球を抱えて走り、タグを取り合うのである。

鈴木雅夫さんはいつも、本気だ。子どもたちにうまくなってほしい。楽しんでほしいと思っているからである。

「前出よう、前へ」

「落としてもいいけど、落としたボールははやく拾わなきゃ」

「追え~、相手を追いかけろ」

イベントが終わる。参加した子どもたちがチームごと、疲労困憊の鈴木雅夫さんのところにお礼をいいにくる。「ありがとうございました」。雅夫さんは厳しい。

「どんなパターンでも活躍できないとだめだよ。ここでやって、楽しめれば、本番の試合でも楽しめます。絶対、強くなります。絶対、負けないチームになります」

「黙ってやったらダメだよ。どんどん言い合いましょ。それがコミュニケーション。お互い、あれしてこれしてって要求しあいましょ。そうすれば、ずっと声が出るよね」

「落ちているボールを拾わなかったり、走っている子についていかなかったり、それは一番やっちゃいけないことだよ。仲間を裏切ることだよね。仲間をいじめることだよね。いかにはやく仲間を助けられるか、いかに多くの仲間を助けられるか。これが一番の基本だよ」

子どもたちは真剣な目で聞いている。この子たちの中から明日の日本代表が育っていくのである、きっと。

鈴木雅夫さんは「タグラグビーをやっていた子たちが、オリンピックでどんなラグビーをやってくれるのかな」とリオ五輪の舞台に思いをはせた。

「みんなで1つ目のトライをとるのに固執してほしいですね。1本、1本…。(サクラセブンズの活躍が)女子ラグビーの発展につながっていきますよ。日本で応援している人たちが、セブンズをもっとやらないといけないと考えるようになります」

横浜の夏休み。セミの鳴き声がはげしい。タグラグビーのおじさんと子どもたちの純粋な声援もまた、サクラセブンズを後押しする。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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