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こころはひとつ、リオ五輪で栄冠を~男子セブンズ、ブラジルへ出発

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ブラジルに出発する7人制ラグビー男子日本代表=成田空港

いよいよリオデジャネイロ五輪が近づいてきた。成田空港は、さながら各競技の日本選手団の出発ラッシュである。29日には、ラグビー7人制(セブンズ)男子代表も事前合宿をおこなうサンパウロに向け、飛び立った。瀬川智広ヘッドコーチ(HC)は「どんな色でもいいから、メダルを持って帰る」と決意を口にした。

「ほんとうにいい準備ができています。(リオでは)全員が“ワンチーム”になって戦っていかないといけないと思います。最終的には、みんなの思いをひとつにして、一丸となって戦いたい」

チームは最後の最後まで熾烈な五輪代表争いをつづけてきた。実力ではなく、ケガや不調で選考から漏れた選手もいる。結局、12人の五輪代表と2人のバックアップ選手は決まった。あとはブラジルに入ってのコンディショニングと戦術の落とし込み、意思統一である。気候や時差などの環境に適応し、いかにチームの一体感を強めていくかだろう。

瀬川HCはこんなエピソードを教えてくれた。国内最後の合宿となった鹿児島キャンプでのことである。合宿終盤、ケガでリオ五輪を断念した後藤駿弥選手(ホンダ)がサプライズでチームミーティングに参加した。長く日本代表として活躍していたナイスガイである。

桑水流裕策主将らチームメイトによると、後藤駿弥選手は手紙にしたためてきた思いをみんなの前で話したそうだ。こんな趣旨だった。

「僕もリオ五輪に出たかった。一生懸命にがんばってきたけど、途中でケガしてしまった。悔しい。でも、みんなが自分の代わりにリオで戦ってくれる。僕の分までリオで頑張ってきてください」

選手たちは突然の後藤駿弥選手の登場に驚き、多くが目をウルウルさせた。とくに桑水流主将は号泣したそうだ。出発直前の囲みで、こうしみじみと振り返った。

「ありがたいサプライズでした。(陽気な)後藤らしくなくて…。あれでチームのスイッチが入りました。ミーティングのあと、グラウンドに出て、ウォーターボーイまでしてくれたんです。そんな姿を見て、気が引き締まりました。いい練習ができました。日本に残っている選手も、セブンズのファミリーだと思っています。彼らの思いまでリオでぶつけてくるのが、我々14人の責任だと思っています」

そうなのだ。この日出発した14人の選手は、セブンズの代表候補、いや日本のラグビー選手すべての代表なのである。だから、左胸に日の丸と五輪ロゴを付けた日本代表ブレザーを着て、ブラジルに旅立ったのである。

リオ五輪の1次リーグ初戦が、世界トップクラスのニュージーランドである。下馬評は圧倒的に相手有利。シチュエーションは、なにやら昨年のラグビーのワールドカップ(W杯)の日本×南アフリカと似ているではないか。そう言えば、桑水流主将も「僕もそう感じています」と少し笑った。

「ポイントはゲームの入りですね。キックオフです。アタックはスペースにボールをうまく運ぶ。ボールをリサイクルし続ける。ディフェンスは前に出る。タックルしかり。ボールを殺す。すぐに立ち上がる。これまでやってきたことを、ニュージーランド相手に全力でやりたいと思います。みんなの思いを背負って」

この日、搭乗ゲートでセブンズ日本代表を見送った人は関係者や僅かなファンで数十人といったところだった。出発の時、同じぐらいの数だったW杯出場の日本代表は3勝して世界を驚かせ、帰国の際、それが5百人ぐらいに増えた。

こころはひとつ、リオ五輪で栄冠を。半月後、セブンズ日本代表も、そうなってほしいのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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