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【リオ五輪】ああ落胆のサクラセブンズ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ブラジルに敗れて落胆するサクラセブンズ(8日)(写真:ロイター/アフロ)

つらいオリンピック大会となった。8日のリオデジャネイロ五輪の7人制ラグビーで、女子日本代表『サクラセブンズ』は最後、開催国のブラジルに5-33で敗れ、12チーム中10位という結果に終わった。これで世界の強豪が集うワールドシリーズにフル参戦できるコアチーム入りも逃し、日本は苦境に置かれることになる。

ああ、この5年間のハードワークは何だったのか。目標に掲げた金メダルと、現実の10位とのギャップは何なのか。日本ラグビー協会の本城和彦セブンズディレクターは「スタッフ、選手はよく頑張ってくれた。今までやってきたことが否定されることもない」と言いながらも、「チームを仕上げていく段階で歯車が少しずれたのかもしれない」と漏らした。

「ただ5年間、約1100日(の合宿&遠征)、みんなが心血を注いでがんばってきた集大成となるアウトプットがこれでは悲しすぎる、(選手が)かわいそうすぎる。結果だけで言っているわけではない。5年間積み上げてきたスタイルが発揮できなかったことが残念です」

この数カ月間のチーム作りの苦悩や迷いが五輪舞台にそのまま表れた。戦い方はもちろん、けが人続出に伴う選手選考、試合での選手起用、マインドセット(心構え)・・・。「みんなで走り勝つ」というサクラセブンズらしい戦い方はできなかった。いや、持ち込めなかった。

最後のブラジル戦はアウエーながら、日本から選手の家族や熱心な応援団も駆けつけていた。「ニッポン!ニッポン!」と声を枯らす。大黒田裕芽が先制トライを挙げながらも、密集サイドを突破されてトライを返され、さらに中村知春主将がハイタックルでシンビン(一時的退場)を受けた直後、力任せのトライを加えられた。

後半は、いずれもディフェンスラインのうしろに蹴り込まれ、3トライを許した。対応できないままだった。たしかにセブンズでは力を出させてもらいないことは多々ある。でも、ブラジル程度のチームにも自分たちのラグビーができないとは。

酷な言い方をすれば、力の半分も発揮できなかったのではないか。ワールドシリーズのコアチーム入りを逃したということで、最低限のミッション、責務を果たすこともできなかった。この状況から、サクラセブンズは今後、どうすればいいのだろうか。本城ディレクターは言った。

「代表候補選手を徹底的に鍛えてあげていくことに変わりはない。また国内大会のステータスを高めることにより、国内チームの強化を加速させ、レベルの高い選手層の厚みを増していきたい。さらに、アスリートとして、能力の高い選手を他競技からも含めて発掘することも必要だ。チームのアスリート集団としてのレベルを上げていきたい。選手には、この5年間の喜怒哀楽を心に刻み、これからのエネルギーにしてほしい」

このリオ五輪で改めて分かったことは、どの国もチームをきっちり仕上げてくることである。金メダルの豪州や銀のニュージーランド、銅のカナダと比べると、フィジカル、スピード、パワー、テクニック、すべてにおいて、少しずつ力が不足しているということだろう。「さらにそれぞれの要素を上げていくことも必要だ。伸びシロは、まだまだある」

まずは総括が求められる。そのうえで4年後の東京五輪に向けてどう強化していくのか、の長期戦略が練られなければなるまい。サクラセブンズのさらなる戦いがすぐにはじまる。

【談話】

◇浅見敬子ヘッドコーチ

我々が持っている「今の力」の結果だと捉えています。選手が持っている力、最高を10とした時に、その10を出せなかったことは事実であり、ヘッドコーチとしての力不足、責任です。改めて、日本代表としての「責任と使命」を知り、たくさんの方に温かく応援していただいたことに「誇り」を感じます。また世界と戦い、勝つことを目指しながらも、世界とつながっている素晴らしい経験を得たことに感謝しています。

サクラセブンズは、厳しい戦いをし続けてきました。またチームとして規律も大切にし、人間的な成長も目指していきました。ただ、これからは、「まっすぐ、真面目に」だけではない部分が、サクラセブンズには必要です。ラグビーだけではないところで、どこまでその部分を伸ばせるのか、指導者やチームに携わるスタッフの工夫がもっともっと必要です。

チームの根本を「走ること」、また目標を「金メダル」に置いてぶれずに貫いたことは、厳しいトレーニングを長期間続けた我々にとっては、モチベーションが下がることがなかったので、2020年に向けても、どんな形であれ、目標と強化方法を一致し続けることが大切かと思います。

◇中村知春主将

急には強くなれないということを思い知りました。常に強いチームが勝つ。メンタル面でもフィジカル面でも。私たちはまだまだ弱かったのです。2020年に向けて、この経験は大きなものであったと思います。世界の強さを常に感じる状況に身をおきたい。個々が、世界レベルのフィジカル、世界レベルのスピードに鍛え上げなければいけないと思います。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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