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リオ五輪、なぜ男子セブンズの日本はNZから金星を挙げたのか

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
NZ戦勝利を喜ぶ男子セブンズ日本代表(8月9日)(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

快挙である。9日に始まったリオ五輪の7人制ラグビー(セブンズ)の男子。1次リーグC組の日本代表が初戦でニュージーランド代表『オールブラックス・セブンズ』に14-12で逆転勝ちし、番狂わせを演じた。

まさに昨年の15人制ラグビーのワールドカップ(W杯)の日本×南アフリカの再現である。デオドロスタジアムには「ニッポン・コール」が鳴りつづけ、異様な興奮に包まれた。日本ラグビー協会の坂本典幸専務理事は「W杯だけでなく、オリンピックでもやってくれました。日頃の成果が大舞台で発揮できてよかった。この勢いを保って、目指すところ(メダル)までいってほしい」と喜んだ。

日本代表が、15人制ラグビーを含め、ニュージーランド代表に勝つのは史上初のことである。NZは過去のセブンズワールドシリーズで17回中12度も総合優勝した強豪中の強豪。日本協会の本城和彦セブンズディレクターも「よく勝ち切った」と感激顔だった。 「この大舞台で力を発揮してくれて最高だ」

なぜ、日本がオールブラックス・セブンズに勝ったのかというとディフェンス力である。ひとことで言うと、「粘り抜いたディフェンスの勝利」である。

また、男子は最後のチーム作りがうまくいった。迷いがなかった。本城ディレクターは言葉を足す。

「14分間(前半&後半)のピッチのパフォーマンスでも、やってきたことを実現できた。よくがんばってディフェンスができた」

試合の入りもよかった。午後零時半スタート。気温は30度余の暑さの中、日本は自分らの目指すラグビーに徹した。守りは鋭く前に出る。攻めては「ボールをスペースにうまく運び、動かしつづける」。そのスタイルを徹底し、プレーの精度も高くした。

前半3分過ぎ、はやいテンポで攻め、右のラインアウトから左オープンに回し、後藤輝也が左隅に飛び込んだ。記念すべき先制トライ。その後、逆転されたが、後半早々、日本のレメキ・ロマノが、NZの15人制代表のスターでもあるソニービル・ウィリアムズを負傷退場させた。もう勢いは日本である。

後半の残り1分。ペナルティーを得ると、トゥキリ ・ロテが速攻を仕掛け、副島亀里ララボウ ラティアナラが左中間に同点トライをあげた。坂井克行が難しい角度からのコンバージョンキックを決め、逆転した。チームの成長の跡が見えたのが、最後のディフェンスだった。全員で必死に守った。

試合終了のホーンが鳴ったあと、敵陣深く入ったゴール前のマイボールのラインアウトに失敗し、ピンチを招く。相手の独走を許したときは快足の福岡堅樹がよく追いかけて止めた。最後は、レメキ・ロマノが力で止め、史上初のNZ戦勝利をもぎとった。

じつは本城ディレクターは男子の活躍を予想していた。チームの仕上がりがよかったからである。同ディレクターは言う。

「この数カ月で、やろうとしているラグビーにどんどんフォーカスされていった。チームのバイオリズムも上がってきていた。それがゲームのパフォーマンスに表れた。ディフェンスでこれだけ粘ることができれば、相手もミスをしてくれるし、ペナルティーもする。当然失点も抑えられる」

格上のチームと戦う時はやはり、しっかりとディフェンスで粘っていくことが大切なことである。また攻撃ではミスをしないことも鉄則だろう。それを、まさに日本は実践してくれた。前に出ているときははやく詰めているし、やみくもに出るんじゃなくて、スッーと出ながらステイして、相手の動きを見ながら、また前でタックルしていた。つまりチームとしてよく機能した。

また、一人ひとりのタックルも外されていない。勝因はこの最後のディフェンスである。それは地力がついた証拠でもある。本城ディレクターは言う。

「ゲームを通じて、互角というのは言い過ぎだけど、堂々と落ち着いて戦っていたよね。ニュージーランド戦は戦い方もあたった。みんながやろうとしていることが、どんどんクリアになってきているからミスも起こらない」

確かに、オールブラックスに勝ったのだから歴史的な勝利ではある。だが、午後5時からの英国戦には19-21で惜敗した。10日のケニア戦に快勝して準々決勝に進出して、初めて男子セブンズに力がついてきたといわれることになる。

本城ディレクターは言った。

「仮にメダルに手が届かなくても、それを達成して初めて満足のいく結果と言える。そして、オールブラックス戦の勝利、グレイトブリテンとの接戦が、フロックではなかったと言える。ケニアに快勝し、トップ8に入ることがすべて」

五輪メダルを目指す日本男子の初日は1勝1敗(得失点差0点)となった。11日、ケニアに勝てば、準々決勝進出の可能性が出膨らんでくる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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