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リオ五輪、歴史を創った男子セブンズの成長と課題

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
3位決定戦で突進する日本代表の彦坂匡克(写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ)

歴史は創った。メダルは逃したけれど、初めてのオリンピック大会で堂々の世界4位である。リオ五輪。デオドロ競技場のスタンドを「ジャパン・コール」とあたたかい拍手が包む中、闘い終えた7人制ラグビー(セブンズ)の男子日本代表の選手たちの顔には悔しさとやり切った充実感があふれていた。

強豪が集まるワールドセブンズシリーズでほとんど勝てず、1年前にコア(中核)チームから降格した日本(今春、再昇格)。大相撲の本場所の番付でいえば、前頭あたりだったのだから、横綱、大関クラスのニュージーランド、ケニア、フランスなどを破ったことは「敢闘賞」ものと言っていい。日本ラグビー協会の本城和彦セブンズディレクターも「大健闘だよ」と評価した。

「よく戦ってくれた。いい準備ができた結果だと思う。みんながやろうとしているラグビーにどんどんフォーカスされていった。個人の能力が上がっているし、マインドセット(心構え)もよくなっていた」

セブンズ最終日の11日、日本は準決勝でフィジーに敗れたあと、銅メダルをかけた3位決定戦では南アフリカに14-54で完敗した。それまでの7分ハーフではなく、3位決定戦は10分ハーフだった。

キックオフ直後、南アの力強いつなぎとスピード豊かなランニングプレーから先制トライを許した。それぞれが必死で止めにいっているのだが、強靱なバネとフィジカルを持つ南アの選手に押し切られた。

2分過ぎ、今大会、大活躍の後藤輝也がタックルを受けた際、負傷し、交代せざるをえなくなった。これは痛かった。3分には、ブレイクダウンをターンオーバーされ、エースのロスコ・スペックマンに個人技でディフェンス網を破られた。だが、7分、ペナルティーキックで  タッチを狙い、ラインアウトからレメキが前進、ラックサイドを主将の桑水流裕策が右中間に飛び込んだ。

前半終了間際、またも南アのスペックマンに走られ、7-21で折り返した。後半開始直後、昨年の15人制のワールドカップ(W杯)に出場した23歳の福岡堅樹が鋭いステップワークで大幅ゲイン、23歳の合谷和弘も50メートルほどを走り切り、中央にトライした。14-21となった。が、その後は、南アのスピードにディフェンスを翻弄され、トライラッシュを許してしまった。

「たら・れば」は禁物ながら、3位決定戦の相手が英国だったら、と思っていた(英国は南アを僅差で下し決勝進出)。なぜかというと、日本にとって、南アやフィジーみたいな動きをされると、日本ディフェンスはついていけないのである。

とくにスペックマンのごとく、強くてはやく、スピーディーで変幻自在な動きにはついていけない。直線的なはやさには対応できるが、自在な動きのはやさにはタックルが外されてしまう。もうちょっと、日本選手にスピードがついてこないと南アを抑えるのは困難だと思う。日本とっては、きっと南アフリカやフィジーは戦いにくい相手なのだろう。

「次はそういう国に勝てるようにしないといけない。その時のカギはやっぱりスピードいうことになるんじゃないかと思う」

男子セブンズの成長といえば、まずはディンフェンスである。一人ひとりのタックルが精度を増し、防御システムが機能していたのだが…。

どだいチームの仕上がりがよかった。「ボールをスペースにうまく運び、動かし続ける」という戦い方から、選手選考、選手起用、マインドセットがうまくいった。

今回のチーム作りにおいて、一番の問題は「実戦経験」だった。そういった意味で、大きかったのが、7月の豪州遠征だった。「走り勝つ」をターゲットに走り込み、豪州代表との試合も繰り返した。

本城セブンズディレクターは言う。

「ちゃんと、オリンピックのシミュレーションをしながら、3日間のゲームをやったようだ。これも大きかった」

さて、4年後は東京五輪パラリンピックが開かれる。強化のメインは、ことし、再昇格したワールドシリーズとなる。課題は、フィジカル、パワー、スピードなど、個々のさらなる力量アップ。南ア、フィジーにも対抗できるディフェンス、スピードである。セブンズ選手の環境や待遇も検討の余地はあろう。

大相撲の番付でいえば、男子セブンズの日本代表が“三役”に定着できるかどうか。初五輪での収穫と課題を吟味し、どう東京五輪につなげていくのかである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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