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リオ五輪閉幕、すべての代表選手に称賛を

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
雨の中のリオ五輪閉会式で行進する日本選手団(写真:ロイター/アフロ)

南米大陸初の五輪開催となったリオデジャネイロ五輪が幕を閉じた。面白くて、楽しかった。今回はやんごとなき事情があって、大会途中でリオから帰国していた。朝日新聞の23日付け朝刊は特別誌面だった。「41の輝き」とのタイトルで新聞の表と裏のページをメダリストの写真がずらり並んでいた。

確かに、メダリストの栄誉を称えるのは当然であろう。だが、日本を代表して戦った335人の選手たちの努力の質量はさほど変わらないと思う。4年前のロンドン五輪を取材したとき、閉幕の翌日、宿舎ちかくのニューススタンドで買った英国紙のつくりを思い出す。驚いた。たしか「みなに称賛を」といった見出しで、英国五輪代表全選手の顔写真が並んでいた。

リオ五輪が成功であったのかどうか。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は主催者として、どんな形であれ「いい大会だった」と絶賛する。決して自己否定はしない。いずれにしろ、無事に終われば「成功」だろう。でも成否の基準は多々あろう。財政面なのか。あるいは開催国の盛り上がりか。運営面か。安全面か。。

大会の盛り上がりでいえば、それは天気、開催国の代表選手の活躍、ボランティアで左右されると考えている。最後にサッカーでブラジルが初優勝したことで、ブラジルの人々はある程度、満足しているのではないだろうか。

正直言って、スタンドの観客の入りは悪い印象を受けた。閉会式だって空席が目立った。雨の閉会式。大会組織委の方々を気の毒に思った。安全面でいえば、1988年ソウル五輪からすべての夏季五輪を取材してきたけれど、命の危険を感じて現地入りしたのは初めてだった。が、危ない目にはあわなかった。盗難や強盗はともかく、テロが起きなかったことが一番である。

メディアはどうしても、メダル争いに焦点をあてる。もちろん参加選手もメダルを目指して戦い、ぼくだってメダル云々の原稿はたくさん、書いてきた。日ごとの国別のメダル獲得表には一喜一憂する。日本選手団は史上最多の41個のメダルを獲得した。金メダル数が12個で、世界6位(ロンドン11位)に躍進した。

オリンピックの憲法ともいわれる五輪憲章第57条にはこう明記されている。<IOCとOCOGは国ごとの世界ランキングを作成してはならない。>

OCOGとは、オリンピックの大会組織委員会のことを指す。つまり、オリンピック大会における選手のパフォーマンスに対しての栄誉は個人に帰するもので、国家に帰するものではない、とうたってあるのである。国別のメダル表なんてつくってはだめですよ、と。「オリンピックで大切なことは、勝つことではなく、参加することである」にも相通じる。

だが、実際、国別メダル獲得表はメディアにとってはマストである。多くの人々もやはり、日本がいくつのメダルをとって、世界で何番目かということを気にする。母国の代表が金メダルをとれば、大喜びする。メダルを逃せば、中には一緒に泣く人もいよう。

スポーツにおいて、勝利を目指すことは大事な要素である。国ごとの競争があるから、より必死になる。某テレビ局が五輪開催のメリットとして「国威発揚」という時代錯誤の言葉を使っていたけれど、オリンピックでの母国の活躍は空気を明るくする。活力を生む。その国のスポーツ力を見る場合、オリンピックのメダル数はひとつの指標となる。だから、国はオリンピック大会に向けた支援に資金と人を投入するのである。

今大会のメダル数の躍進の理由としては、選手の才能や努力は当然として、環境では、2020年東京五輪パラリンピックが決まっていたことが大きいだろう。また国の強化支援の拡充ゆえである。2008年に文部科学省(のちにスポーツ庁が引き継ぐ)が始めた「マルチサポート事業」の成果も見逃せない。

それは(1)アスリート支援(2)マルチ・サポートハウス(現・ハイパフォーマンスサポート・センター)(3)研究開発(2010年より開始)(4)女性アスリートの戦略的サポート(2011年開始)の4つが軸である。アスリート支援として、メダル有望競技として「ターゲット競技種目」を選定し、集中強化してきた。結果、今大会のメダル41個のうち、実に40個がマルチサポート事業(2013年度)の対象競技だった。2020年東京五輪に向け、この事業は拡充されることになるだろう。

まずは、リオ五輪の検証である。4年後につながるメダルはどれなのか。4位から8位の入賞者も分析され、4年後に向けた強化支援策や戦略が練られることになる。分析の場合、結果だけでなく、過程もチェックする必要がある。

記録競技の場合、やはり自己ベストが大事な指標となる。選考会から何人の選手が記録を伸ばし、リオ五輪で自己ベストを出したのか。予選、準決勝、決勝と記録を伸ばしていくことができのたか。コンディショニングやリカバリー、調整はうまくいったのかどうか。

また今大会、土壇場の逆転勝ちが多かったが、それはなぜなのか。精神力の強さや練習量の多さだけでなく、リードを許した場面設定での練習が奏功したケースも多々、あろう。

欲を言えば、成功事例だけでなく、失敗事例も競技団体の検証の対象としてほしい。4年後の東京では同じ過ちは起こさない。「失敗から学ぶ」ことは大事なことである。また選手だけでなく、指導者やスタッフの質量、戦略も検証の対象となる。

代表選手たちは少しでもいい結果を求めて日々精進する、国や競技団体、スポンサーなどが支援する。それは当然である。オリンピズムの「より速く、より高く、より強く」の実践の具体的な結果がメダルともいえる。

だが、結果がでれば、どの選手もリスペクトする。綺麗ごとかもしれないけれど、そこに勝者も敗者もなく、どの選手の努力も貴いものなのだ。4年後の東京五輪パラリンックは、メディアも人々もスポーツの本質をじっくり考えるチャンスである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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