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4連勝。サントリーと新主将の成長とは。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
サントリーをリズムに乗せたSH流大主将。17日・秩父宮(撮影:齋藤龍太郎)

「サントリー・プライド」。振り絞られたコトバが熱い。王者パナソニックを撃破し、サントリーが開幕4連勝とした。歓喜に沸く試合後のロッカールーム。2年目の流大新主将の音頭でこう、みんなで声を合わせた。

「ワン・ツー・スリー・プライド!」

東京・秩父宮ラグビー場の玄関そば、帰りのタクシーに乗る直前だった。律儀な24歳はタオルで額の汗をぬぐいながら背筋を伸ばし、こう説明してくれた。

「いつも自分たちのプライドを忘れないためです。今日はよかったところも、修正するところもいっぱいありました。僕らの目指すところは優勝なので、もう一回、サントリー・プライドを意識して、チャレンジし続けていこうということです」

夏の暑さがまだ残る9月17日の夜である。相手はトップリーグ4連覇を狙うパナソニック。サントリーは昨季、過去ワーストの9位に終わり、プライドは地に落ちていた。忘れかけたプライドを取り戻すことが、今季の復活ストーリーを色付けしていくことになる。

リーグ序盤の山がこの日の勝負だった。ラグビースタイルは昨季と同じ『アグレッシブ・アタッキング・ラグビー』でも、中身がちがっている。「スマートさ」をプラス。まずスクラムにこだわる。セットピースで優位に立ち、判断よくボールを動かし、はやいテンポのラグビーをコントロールしていく。

パナソニックのディフェンスは全員が立ってワイドにひろがる。ならば、まずボールキャリアがしっかりとファイトし、その間をぶち破っていく。とくにボールを後ろに下げると、ターンオーバーから切り返されるので、なるべくボールを下げずにゲインを突破していくようにこころがけた。

流主将がいう。

「最初はパナソニックに比べて、二人目の寄りが遅かったので、前半の途中から二人目の寄りをはやくしようと言い合いました」

スクラムを押す。ブレイクダウンでファイトする。猛タックル。すぐに起き上がって、また走る。昨季との一番の違いをいえば、みんなが立って、それぞれのオプションの位置にすぐ戻り、前に出るという意識がこちらに伝わってくるところだろう。

SH流は成長した。先輩の日本代表SHの日和佐篤がテンポアップできるのに対し、流はスペースをしっかり見極めてゲームをコントロールできるようになってきた。この日は、キック、パス、ランの判断がよかった。とくにラックまわり。

勝敗の流れを決めたトライは、後半序盤のプロップ石原慎太郎のそれである。連続攻撃からの中盤のラック。近場に相手のディフェンスの意識が集まっているとみるや、流主将は長めのフラットパスを石原に投じた。これがドンピシャで決まり、インサイド気味に走り込んだ石原がディフェンスを突破し、そのまま中央に駆け込んだ(なんと、この日、石原、畠山健介の両プロップがトライをマーク。珍しくもめでたい試合となった)

これには伏線がある。流主将が「ボディーブローを効かしておいたからです」と説明する。これもスマートさか。

「いろんな布石を打って、前半はちょっと(ラックの)近めにボールを集めていたので、そこ(遠め)が開いたんだと思います。石原さんもいいランニングラインで、いいトライになりました。あれは完璧ですね」

結局、45-15の快勝だった。試合後の記者会見。沢木敬介新監督は流主将の成長を質問されると、こう言った。

「プレーも去年に比べたら断然、よくなっていると思います。持ち味であるスペースをしっかり見極めるところも4試合目にしてやっとできたかなという感じです」

刹那、同監督はニンマリ笑って、「ねっ」と隣の流主将に声をかけた。

流主将は固まって、「はい」と応じるのがやっとだった。

総当たりリーグで優勝を決める今季にあって、1戦1戦が同じ価値を持つ。どの試合も落とせない。沢木監督はチームの成長を感じつつ、こう表情を引き締めた。

「やっと4戦目にして、我々のやろうとしているラグビーができはじめてきたかな、と思います。ただ、まだパナソニックさんの攻撃に対しての対応力のなさというのが、また課題として見つかりました。うちは(昨季)9位のチームなので、すべてのチームに対して、1試合1試合、粘り強く、我慢強く、チャレンジするだけです」

今季のスローガンが『サントリー・プライド~インターナショナル・スタンダード』である。サントリー・プライドとは、相手より走ることもそうだし、接点でファイトすることもそうだし、ひたむきさ、あきらめない精神もそうだろう。が、なんといってもチャレンジ精神である。

この勝利は、流主将にとっても、サントリーにとっても、大きな意味を持つことになる。流主将はタクシーに乗り込む際、もう一度、こう言い切った。

「もちろん、うれしいし、喜んでいるんですけど、ほんと大事なのは優勝することです。浮かれることは、絶対、ないです」

サントリーの選手にプライドが蘇えりつつある。今月、24歳になったばかりの新主将。コトバには若者特有の必死さがただよい、妙な迫力もあった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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