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すべては代表強化のため~ラグビー新HCコンビ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
日本ラグビーの未来を担うジョセフ氏とティアティア氏(右)(撮影:松瀬学)

すべてはラグビー日本代表の強化のためである。南半球の強豪クラブがつどうスーパーラグビー(SR)の日本チーム、サンウルブズの新ヘッドコーチ(HC)のフィロ・ティアティア氏が5日、チームジャパン2019総監督のジェイミー・ジョセフ日本代表HCとともに記者会見した。45歳のティアティア新HCは「みなさん、こんにちは」と日本語でほほえみかけ、英語で抱負を述べた。「プラニングが大事になります」と強調した。

「ハイレベルで我々サンウルブズがどういうプレーをしたいのか。そのためにはどういった準備、どういった強化が必要なのか。ジェイミー(ジョセフ日本代表HC)ときちんと連携をとり、日本代表と同じ方向を向いていかなければなりません。私の責任は何かというと、少しでも多くの日本代表の選手、あるいは日本代表となりうる選手に経験を積ませていくところだと思っています」

昨シーズン、SRに初参戦したサンウルブズは1勝1分け13敗で、18チーム中の最下位に終わった。確かにサンウルブズは2019年に日本で開催されるワールドカップ(W杯)で日本代表が好成績を出すために編成されたチームだが、強化とともに、ファン拡大、収益アップの期待も担う。そのためには選手の成長、試合内容も大事となる。

ティアティア新HCは昨季、サンウルブズのFWコーチを務めた。初参戦の昨季は準備不足、経験不足に苦しんだ。「いろんな経験をして、たくさんの教訓を学びました」と振り返った。

「やはり昨シーズンからの継続性ということも大事になります。選手たちのパフォーマンス、チームの文化といったものは、マーク・ハメットさん(前HC)が基礎を築いてくれました。そういったものをもっとよくするために、まずはチームとして大きなものに挑戦していく強さというところを培っていきたい。ファンの人が我々を誇りに思えるようなチームをつくっていきたい」

ティアティア新HCは、ジョセフ日本代表HC同様、ニュージーランド出身の元ニュージーランド代表「オールブラックス」選手である。ともにプライド、戦う姿勢、人間力を大事にする。「選んだ選手をプレーヤーとしてのパフォーマンスの部分はもちろんですけど、フィールド外のところでも成長させていきたい」と言い切った。

数字的な目標を聞かれても、ジョセフ日本代表HCと同じく、ティアティア新HCは具体的にはまず、答えない。「(目標は)何勝か、何位かとよく聞かれるけれど」と苦笑いしながら、明言は避けた。目がやさしい。右耳がつぶれている。つい好感を抱く。

「もちろん全勝するつもりで臨みます。でも、(目標は)常に彼らが持っている能力のベストを発揮させたいということです。彼らがフィールドでベストなパフォーマンスを発揮してくれるのであれば、結果はおのずと付いてくるでしょう。もしもポテンシャルを最大限発揮してくれれば、勝利しなくても、彼らを怒ることはありません。むしろ誇りに思います。親子の関係に似ているのではないでしょうか。ヘッドコーチとして、人と人とのつながりを大事にしたいのです」

46歳のジョセフ日本代表HCはティアティアHCに信頼を寄せる。過日発表された日本代表スコッド36人にはノンキャップ(代表戦経験なし)が15人も名を連ねた。ジョセフ日本代表HCは、「新しいジャパンでは、新しい選手に新たな挑戦の機会が与えられた。サンウルブズでも世界の舞台で経験を積んでくれることになります」と言った。

「もしサンウルブズがいい結果を残しても日本代表の強化がままならないということであれば、それは意味がないでしょう。私がフィロ(ティアティアHC)と一緒に話をしていることは、日本代表とサンウルブズの連携によって、日本のラグビーそのものを次のレベルに持っていこうということです。それが大事なことなのです」

サンウルブズでは参戦1年目の昨季、チームの移動や食生活、からだのケアなどで選手の不満があった。マネジメントの部分である。チームの責任者、ジャパンエスアールの上野裕一業務執行理事は「(選手の待遇は)改善されていくと考えていただければいいと思います」と話した。

チームづくりを「海図」にたとえ、「去年とはちがう海図を持ったわけだから、(新しい)海図に基づいてよりよい方向に展開していければいいと思っています」と説明した。選手の待遇改善のためには当然、資金が必要で、収益構造のバージョンアップも求められることになる。何より日本開催の試合の集客、スポンサー集めがかぎを握る。

ジャパンエスアールによると、来季のサンウルブズの選手契約に関しては、オファーを出した33人のうち、14人ぐらいと既に口頭で合意しているという。

サンウルブズの来季の初戦は2017年2月25日、東京・秩父宮ラグビー場で、ことしの王者ハリケーンズ(ニュージーランド)と対戦する。チームを集めての準備期間は約3週間といったところか。

とにもかくにも、すべては2019年W杯のため、である。日本代表の強化のためには、サンウルブズの活用が欠かせない。世界レベルのタフな戦いの中で、選手、とくに若手のプレーの質をどう上げていくのか。それが、ティアティア新HCに課せられたミッション(使命)である。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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