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2020年以降も生き残る経営理念のあり方とはー強い組織文化は「つくる」ものではなく「そこにある」もの

三城雄児治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者
組織の「色」は様々、自社らしさはどうやって生まれるのか?(写真:アフロ)

「組織文化」に対する取り組みが増加している

私は銀行員を退職した後は、組織人事戦略コンサルタントと大学教授という二つの仕事を15年間継続してきましたが、この3年間ぐらいは「組織文化」に対する取り組みが非常に増えました。経営理念のグループ企業全体への浸透や、新しい経営方針の伝達と共感、イノベーションを起こす組織風土への変革など、組織全体のムード(雰囲気)を変えていくという改革が、非常に求められるようになってきたと感じています。

「目に見えるもの」を改革する合理化経営は何をもたらしたか

これは、組織のあり方が「目に見えるもの」を重視する時代から「目に見えないもの」を大切にする時代に転換してきたということを表しています。従来の日本企業はこの「目に見えないもの」をとても大切にしてきました。ご縁を大切にしたり、付き合いを重視したりする信頼資本。暗黙知を人から人へ伝承する知的資本など、目に見えない資本が日本企業にはたくさんありました。しかし、2000年頃からの経営環境は「見える化」「標準化」「合理化」の流れの中で「目に見えるもの」に対する改革を続けてきました。そして、財務数値や業務フローなど「目に見えるもの」をパワーポイントの資料に落とし込み、「目に見えるもの」をより良くするために様々な「効率化」を実施してきました。その結果、日本企業が従来持っていた「目に見えない」経営資本が軽視され、無くなってきたてきたように思います。

「目に見えないもの」を大切にする時代に戻った

「大切なものは目に見えないんだよ」有名な星の王子様の言葉です。

組織には目に見えない価値が沢山存在します。これらの大切さをもう一度想い出し、無くしたり忘れてしまっていることはないか、一度、組織全体を俯瞰して観察してみると良いと思います。エドガー・シャインは「組織文化」を3つの領域で整理しています。

組織文化の3つのレベル
組織文化の3つのレベル

これを氷山に例えて、一番上の目に見えている部分を「人工物(artifact)」、見えてはいないが意識されている部分を「価値(value)」、見えてもいなく意識もされていない部分を「基本的仮定(basic assumption)」と定義しました。経営理念や社員に向けた標語などは目に見えている部分であり、ここは容易に変化させることができます。しかし、人々が意識している価値観についてはなかなか変えることができません。そして何より、人々が意識せずに実行していることについては、変えることすら話題に上がりません。つまり、組織文化を変化させようと思ったら、一番変わりにくいのは基本的仮定なのです。そして、この基本的仮定こそ、組織文化の一番根幹を支えているものであり、その組織らしさをつくっている一番のエンジンでもあるのです。

「目に見えないもの」は一度意識してから変化させ、また無意識化に入れる必要がある

組織文化を変革するといった時に、一番に扱わなければならないのは、無意識下にある基本的仮定なのです。

ところが、基本的仮定は意識されていないため、その組織の内部にいると気づきません。

そこで、お客さま、株主、パートナー、外部の専門家などに協力してもらいながら、自社の基本的仮定を洗い出してみることをお勧めします。

一度、意識化されると、それは「価値」として議論できるようになります。「価値」として議論して方向性が見えたら、それを定義して経営理念やビジョン、あるいはクレドカードのようなものにまとめます。しかし、一番の根幹である基本的仮定は、このままでは元のままです。経営理念の文言を変えたとしても、その組織に所属するメンバーの基本的仮定が元のままであれば、その組織の経営理念は空虚に響くだけです。

「基本的仮定」はそこにあるもの。変化には時間と労力がかかる。

経営理念といった「人工物」ができて、大切にしたい考え方を「価値」として議論できるようになったとしても、それが組織の一人ひとりの「基本的仮定」となるまでは、組織文化は変化したとは言えないでしょう。この基本的仮定まで落とし込まれ浸透するには時間と労力がかかるのです。そこで、以下の図のように、ヒト、ツール、プロセスという三位一体の取り組みを継続することで、この時間と労力をできる限り無駄遣いせずに、組織文化をつくっていく取り組みを、このような変革の際には実施しています。

ヒト、ツール、プロセスの三位一体の取り組みが組織文化の変革には有効
ヒト、ツール、プロセスの三位一体の取り組みが組織文化の変革には有効

ヒトの面では、キリストの宣教師のように、ブッタの弟子たちのように、組織トップの意志を伝えていく伝道師(アンバサダー、エバンジェリストなど呼び方は様々)を増やしていきます。そして、伝道師や現場のマネージャーが活用することができる映像コンテンツや冊子をつくっていきます。これはキリスト教で言えば聖書のような役割を果たします。さらに、この取り組みを組織全体の動きとするために人事評価や表彰、各種組織内外のイベントに取り入れていきます。このようなことを継続していくことで、組織文化を徐々に徐々に浸透させ、前述した「基本的仮定」レベルまで全てのメンバーが落とし込むように仕掛けていきます。

これらの取り組みは時間がかかるものですが、一度、浸透してしまうと長く効果を発揮するものだと言えます。逆に、悪い組織文化が浸透してしまうとなかなか変えづらいということも言えるでしょう。(終)

治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者

早稲田大学政治経済学部卒業。銀行員、ベンチャー企業、コンサルファームを経て、JIN-G Groupを創業。グループ3社の経営をしながら、ビジネス・ブレークスルー大学准教授、タイ古式ヨガマッサージセラピストの活動に取組む。また、会社員としてコンサルファームのディレクターとしても活動し、新しい時代の働き方を自ら実践し、お客さまや学生に向け、組織変容や自己変容の支援をしている。組織/個人に対して、治療家として、東洋伝統医療の技能を活用。著書に「21世紀を勝ち抜く決め手 グローバル人材マネジメント」(日経BP社)「リーダーに強さはいらないーフォロワーを育て最高のチームをつくる」(あさ出版)がある。

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