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最強メイウェザーの代理人と契約。時流に乗った?亀田和毅の今後

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ラスベガスでプンルアンを沈め、WBOバンタム級王座を防衛した亀田家三男・和毅

本場デビュー直後に電撃契約

今月12日ラスベガスMGMグランドでスペクタクルなワンパンチKOで2度目の防衛に成功した亀田和毅(WBO世界バンタム級王者)が試合3日後、強力代理人アル・ヘイモンとサインを交わした。イベントのプロモーター、ゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)と将来契約を結ぶと推測されただけにこのニュースはサプライズだった。

大物、フィクサー、ゴーストとヘイモンという人物を形容する言葉は事欠かない。職種もアドバイザー(代理人)で通っているが、マネジャーと呼んでもよく、時には実質プロモーターにも変身する。多くの仮面を持った58歳は表舞台に登場することがなく、いっそう神秘性を際立たせる。いずれにせよ、強豪選手がこぞってヘイモン門下に入る事実は敏腕、やり手の枠を超越してカリスマの域へと彼を昇華させている。

ヘイモンが選手たちから絶大に支持されるのは「歩くATM(現金自動引出し機)」と吹聴される交渉力にある。元々、ボクシング中継の代名詞といわれるプレミア・チャンネルHBOに選手を提供していたヘイモンは業界ではそこそこ知られる存在だった。だが昨年、状況はガラリと変化する。彼がリングに上げるボクサー、いわゆるクライアントはHBOのライバル、ショータイムに登場するようになった。発端は現役最強ボクサーにてアスリート・ナンバーワンのリッチマン、フロイド・メイウェザーのショータイム移籍だった。

報酬アップの仕掛け人

「もしヘイモンともっと前に知り合っていたら今の倍稼いでいただろう」とは経済誌フォーブスが発表した長者番付で1年の収入が1億ドルを超えたメイウェザーのセリフ。コマーシャルなど副収入が一切なく、リングだけでこれだけゲットしているのだからすごい。ニックネーム“マネー”の面目躍如だが、金の出所はショータイム。4大ネットワークの一つCBSがバックに控えているから心強いが、予算的にはまだHBOの後塵を拝しているといわれる。

では、なぜこんなマジックが可能になるのか?正直、的確な答えは見つからない。現世の錬金術師――そんな平凡な表現しかできない。そこがヘイモンのヘイモンたる所以だろう。ちなみに今年に入り、ヘイモンと契約しHBOからショータイムに鞍替えしたアドニス・スティーブンソン(WBC世界ライトヘビー級王者)はファイトマネーが40%増えた。またメイウェザーの“弟分”で3階級制覇王者エイドリアン・ブローナーもHBOでの最終戦と比べ、ショータイムの初戦は報酬が6割増だったという。

パワー・オブ・ゴールド。金の力には誰も叶わない。ここ最近でもメキシコ版“逃げろボクサー”軟投型のミゲール・バスケス(IBF世界ライト級王者)がトップランク傘下からヘイモンとサイン。けっしてエリートボクサーだけが顧客ではないことが判明した。何か一芸に秀でていれば、この大物アドバイザーの感性に触れるのだろう。日本で言うところの中量級選手を配下に収め、次から次へとショータイムにカードを提供するあたりは以前のドン・キング・プロモーターを彷彿させる。いや、持ち駒の豊富さはキングの比ではないかもしれない。

第2のパッキアオを目指す

そんな豪華ラインアップの最新メンバーとして和毅が加入。軽量級ではレオ・サンタクルス(WBC世界スーパーバンタム級王者)、3階級制覇のアブネル・マレスに続く優遇となった。亀田側にしてもジムの移籍問題で日本での活動が不自由な状況だけに、渡りに船といっていいだろう。この強運を味方にし、今後どれだけ本場で力を発揮できるかが焦点となる。噂では長男の興毅、次男の大毅も近々ヘイモンと契約を結ぶと報じられる。

とはいえまずは和毅だ。これまでメキシコでも大いに名を売った“エル・メヒカニート”だが、今後コンスタントに米国リングに登場するチャンスが広がる。そしてトップランク傘下で一気に台頭したマニー・パッキアオのようにスターダムにのし上がる可能性も出てくるかもしれない。パッキアオの米国デビュー戦がセンセーショナルな内容だったことも和毅に期待を抱かせる理由だ。キャラクター的にも派手で歯に衣着せぬ発言をする和毅は活躍次第でファンのハートを鷲づかみにするに違いない。同時に早くもランカー陣には「カメダと将来対戦したい」とアピールする者もおり、現地選手にとっても新たなターゲットが出現することになる。

もちろん“ヘイモン・マジック”によってもたらされる報酬もモチベーションを刺激する。大手プロモーションGBPとの間では考えにくいが、資金的に苦しいプロモーターの選手に対してはプロモート権を買い取り、報酬を引き上げているともいわれる。まるで磁石のように選手を引きつけて止まないヘイモンにとって不可能な問題は何もないのかもしれない。

ヘイモン本人は表に出なくても、彼の手足になって働くサム・ワトソンと彼の2人の息子ブランドンとマーカスが必ず試合前後コーナーに陣取る。次回、和毅のそばに彼らの姿が見えたら、好条件が提示されたと思って間違いないだろう。ヘイモンの化身がそこにいるのだから・・・。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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