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「世紀の一戦」は金満ファイト。決戦前に取り残されたファン

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
決戦の場MGMグランド。ほとんどのチケットは主催者たちの手に握られていた

一般販売はわずか3パーセント

フロイド・メイウェザーvsマニー・パッキアオのスーパーファイトまで10日を切った23日(日本時間24日)意外なニュースが伝わった。「試合チケット500〜700枚が一般ファン向けに発売され、わずか1分で完売した」というもの。迂闊にも私はチケットは、とうに発売され、すごいプレミアがついた価格のことしか頭になかった。チケットがまだ残っていたこと自体、不思議な気がした。

それにしても500〜700枚というのは会場MGMグランド・ガーデン・アリーナのキャパのわずか3〜4%でしかない。調べてみると、他の96〜97%のチケットはメイウェザー、パッキアオ両陣営(プロモーター)、MGMリゾート・インターナショナル(MGMグランドの系列会社)、スポンサーなどに買い占められていたことが判明した。もっとも“買占め”という言葉は正確でない。彼らが投資したのかもはっきりしない。キープ、確保と表現した方が適切かもしれない。何しろ23日以前は試合間近なのに誰も印刷されたチケットを目にしていないのだ。先例のない価格高騰は彼らの中の“2次流通”で発生した。“残った”一般チケットがやっと発売されたのが試合10日前というのも前代未聞の出来事である。

異常事態とまさにこのことだろう。1月下旬、メイウェザーとパッキアオがバスケットボールの試合後、会談し実現の決定打となった“マイアミの夜”。その時2人は「ファンの希望を優先させたい。どちらが当代のベストファイターか証明したい」と意気投合したといわれる。これでは彼らは前言に背くことになる。“公式”チケットも1500ドルから7500ドルまでの5段階と通常の試合よりも値が張る。それでもファンの夢が込められたプラチナ切符に映る。コレクターなら超お宝な逸品。しかし、出回ったのはわずか500〜700枚。これを主催者たちの金儲け主義、暴挙と呼ばずに何と呼ぼう。

リングサイドにはどんな面々が?

ボクシングのビッグファイトには、いわゆるセレブリティーと呼ばれる有名俳優&女優、スポーツ選手、ミュージシャンたちがリングサイドに顔を揃えて花を添える。だがベテラン・ブローカー(チケット仲買業者)たちは今回それを否定する。セレブたちはイベントを盛り上げる効果から“ごっつぁん”でチケットを支給されるケースが多いが、米国メディアの取材にオレン・シュナイダーというブローカーは嘆く。「こんなことは今まで一度もなかった。彼ら(主催者)はいったいどうやってチケットを操っているのか。今回リングサイド2列目(注:1列目はコミッショナー席)には皆が知っている人々は少ないだろう。彼らはできる限り多くのマネーを稼ぎたいと望んでいるからね」

スタブハブ、ミュージカル・チェアーズといった大手チケット売買仲買サイトによると、23日現在、アリーナ最上段が5,495ドル(約65万4千円)、フロアー席に至っては89,500ドル(約1千65万円)まで上昇。大台の10万ドル台も間近だともいわれる。ゲート収入は7,400万ドル(約89億円)見込まれ、文句なく歴代レコードが樹立される。だが実状は“つくられた記録”と認識していいだろう。

当日は果たしてどんな人々がリングサイドそしてアリーナを埋めるだろう。かなりの確率で真のボクシングファンとは呼べない人たちが陣取るのではないか。米国のみならず、世界中のリッチマンが集結しそうな雰囲気だ。イベントの規模の大きさや勝敗予想に気を取られている隙に両陣営や器を提供するMGMにうまくコントロールされた印象がしてならない。陣営の一人には変わりないが、“マイアミの夜”に立ち会ったパッキアオのビジネス・マネジャー、マイケル・コンシュは言う。「一番迷惑を被ったのはファン。ボクシング界に悪影響を及ぼす。もしチケットが通常ルートで販売されなければ、人々のボクシングを見る目が変わってしまう」

ファンはソーシャルメディアなどを通して猛烈に抗議。個人的にはPPV収益が莫大な数字に達すると推測されるだけに、ゲート収入はそう欲張らなくてもよかったと思う。だが主催者たちは聞く耳を持たなかった。前日5月1日の計量もチケット持参で10ドル払わないとファンは入場できない。1万2千人の入場が見込まれるから、これだけで12万ドル(約1,400万円)の収益となる。ヘルス・センター基金に寄付されるというのが唯一の救いに思える。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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