三浦隆司が参戦するスーパーフェザー級ウォーズに見る古き良き時代への憧憬

終盤、激しくローマンを追い込む三浦(PHOTO/GBP)

今年は素晴らしい年の予感

昨年10月末、ボクシング・プロモーターでゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)のCEO、オスカー・デラホーヤ氏は「2016年はボクシングの歴史で最悪の年だったと思う」と米国のメディアに吐露した。

ライバル・プロモーターや一部のメディアから反論が飛び出したが、正直、私はこの発言に同意した。実現が強く望まれていたミドル級統一王者ゲンナジー“GGG”ゴロフキン(カザフスタン)vsメキシコのスーパースター、サウル“カネロ”アルバレス(WBOスーパーウェルター級王者)が持越しとなるなど、期待されたビッグマッチが軒並み流れてしまったのがひとつ。そしてファンの注目度が高い試合を放映するHBO、ショータイムが例年と比較して中継回数が減少。またショータイムと関係するが、一昨年船出して飛ぶ鳥を落とす勢いだったPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)シリーズが10月は放映(興行)がゼロになったのも停滞を物語った。

それでも底は長続きしなかった。11月に入るとマニー・パッキアオの復帰戦(対ジェシー・バルガス)、セルゲイ・コバレフvsアンドレ・ウォードのライトヘビー級統一戦が挙行され、12月にはショータイムがダブルタイトルマッチ、HBOも2週連続してタイトル戦を放映。復興の兆しを漂わせ、今年2017年を迎えた。

今年はどうかというと、幸先は好調だ。着眼したいのは試合内容。

最初の注目マッチとなったバドゥ・ジャック(スウェーデン)vsジェームズ・デゲール(英国)のスーパーミドル級統一戦(1月14日・ニューヨーク)は、お互いにダウンを奪い合う、死力を尽くす攻防が観戦者を堪能させた。結果はドローで統一チャンピオンは誕生しなかったが、年の初めから年間最高試合にノミネートされる激闘となった。同じリングでメイウェザー・プロモーションズの新鋭ジェルボンタ・デービス(米)が王者ホセ・ペドラサ(プエルトリコ)に7回TKO勝ちでIBFスーパーフェザー級王者に就いたのも特筆される。期待どおりの勝利で、明日のスター誕生を印象づけた。

2週間後の1月28日ラスベガスで行われたカール・フランプトン(英国)vsレオ・サンタクルス(メキシコ=米)の再戦も予想通り手に汗握るハイテンポな打撃戦が展開され、僅差の判定でサンタクルスがリベンジに成功。WBAフェザー級のスーパー王座を奪回した。同じくMGMグランドのリングでマイキー・ガルシア(米)が王者デハン・ズラティカニン(モンテネグロ)を3回で轟沈。ゾッとするようなKO劇を演じたガルシアはWBCライト級王座を獲得。フェザー、スーパーフェザー級(いずれもWBO王座)に続き3階級制覇を成し遂げた。

ズラティカニンを豪快に沈めたマイキー・ガルシア(写真/SHOWTIME)
ズラティカニンを豪快に沈めたマイキー・ガルシア(写真/SHOWTIME)

これからも、トラブルなど悪い意味ではなく「何かが起こりそうな予感」があるカードがスケジュールに載っている。キース・サーマン(米)vsダニー・ガルシア(米)のウェルター級統一戦(3月4日・ニューヨーク)、ゴロフキンvsダニエル・ジェイコブス(米)のミドル級統一戦(3月18日・ニューヨーク)、すでに9万枚のチケットが完売したアンソニー・ジョシュア(英国)vsウラジミール・クリチコ(ウクライナ)のヘビー級戦(4月29日・ロンドン)、カネロ・アルバレスvsフリオ・セサール・チャベスJrのメキシカン対決(5月6日・ラスベガス)などが代表格。支障なく開催されることを祈りたい。

三浦vsローマンは年間最高試合級

さて1月28日にはラスベガスだけでなく、カリフォルニア州インディオでもWBCスーパーフェザー級タイトルマッチと同級挑戦者決定戦が行われた。前者は多くのメディアから2年連続(2015年の三浦隆司戦と16年のオルランド・サリド戦)年間最高試合に選定された激闘王者フランシスコ・バルガス(メキシコ)に同国の新鋭でWBO暫定王者だったミゲール・ベルチェットが挑戦。後者はランキング1位で前王者の三浦隆司(帝拳)vs2位ミゲール“ミッキー”ローマン(メキシコ)の顔合わせ。

すでに日にちが経過し、さまざまなメディアで報じられているのでディーテールは省略するが、2試合とも期待を裏切らない好ファイト、激戦が繰り広げられ、タイトル戦はベルチェット(25歳)が11ラウンドTKOで王座奪取。一方、三浦(32歳)は中盤ペースを奪われかけたものの、10,11ラウンドにダウンを奪い、最終12回にも倒してKO勝利を飾った。

三浦の試合はかなりインパクトがあったと推測されたので、米国およびメキシコのメディアの反応を確かめてみた。しかしメインエベントがバルガスvsベルチェットだったこともあり、多くは出ていない。ようやく見つけたのが、リングマガジンのホームページだった。テレビ解説も担当し、ボクシング・ビート誌にもコメントを寄せる日本通、ダグ・フィッシャー記者が書いている。

分量的にはタイトル戦が3分の2、三浦戦が3分の1程度。日本では“ボンバー・レフト”の異名があるサウスポー、三浦の左パンチ。10回にローマンを悶絶させた左ボディーをフィッシャー記者は「クレーンでつるすビルディング解体用の鉄球」と形容。その迫力に圧倒されたと記す。15年のバルガス戦でも強烈な左ストレートでダウンを奪っている三浦。そのスラッガーぶりは本場ファンの目にも焼き付いているはずだ。同記者は「ファイト・オブ・ジ・イヤー(年間最高試合)候補だ」と推す。

当然、三浦は新王者ベルチェットへの挑戦を切望。両陣営の交渉次第だが、指名挑戦者になったことでWBCの後押しも得られる。バルガス、ローマンと激闘を展開した三浦はベルチェット戦でも奮戦、王座奪取が大いに期待できる。試合を組むGBPもビジネス意欲を刺激されるカードだろう。

一方、ベルチェットに王座を明け渡したバルガス(32歳)だが、今回も激しい目のカットと腫れを負いながらも奮闘。米国メディアが冠した「メキシコのガッティ」に恥じないパフォーマンスを披露した。ガッティとは8年前、旅行先のブラジルでミステリアスな死を遂げた元2階級チャンピオン、アルトゥロ・ガッティ(カナダ=米)のこと。王座陥落でスーパーフェザー級戦線の主役から降格したが、負傷から回復すればバルガスはまだ重要キャストの一人に違いない。三浦に敗れたローマン(31歳)もこの時まで18連勝16KO中。挫折からの復活を誓う。

バルガスをTKOして王者に就いたベルチェット(左)(PHOTO/GBP)
バルガスをTKOして王者に就いたベルチェット(左)(PHOTO/GBP)

本場を酔わせた4人

この4人がインディオでファンに見せ付けたものはフロイド・メイウェザーの世界とは明らかに異質なものだった。熱き血とガッツとスリル・・・。純粋な技術だけならメイウェザーの後塵を拝するが、これぞボクシングの真髄といった、心に訴えるものを発散していた。三浦を例に取れば、劣勢に陥りながらもチームの檄で奮起したこと。それは「ガードの上からでもとことんパンチを叩きつけろ!」というものだったらしい。私はそこにボクシングというより“拳闘”の香りを感じた。

前出のフィッシャー記者は、こう書いた。「彼ら(ファン)が古き良き時代の戦いを楽しもうとすれば、それは今では傲慢な行動かもしれない。彼ら神聖ぶった野暮天は、いくらかの(異種の)文化を得たほうがよいだろう」(カッコ内は筆者の訳)

メイウェザーの技術に陶酔するファンやボクサーが多いのは事実である。それは米国にとどまらず世界中に存在する。だがフィッシャー記者は、そればかりがボクシングではないと言いたかったのだろう。ボクシング文化の発信点は日本でもあり、マッチョ気質が幅を利かすメキシコも該当する。アメリカのファンが長らく求めようとしても難しかったものがインディオのリングで発見された。

ロマチェンコ、サリド、コラレスもいる

それにしても今、130ポンド(スーパーフェザー級)がホットだ。サバイバルしたベルチェット、三浦に、アマチュアで驚異的なレコード(396勝1敗!)を誇るオリンピック2連覇のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)がWBOチャンピオンに君臨。“ハイテク”のニックネームを持つロマチェンコ(7勝5KO1敗)をこのクラス最強と推すメディアも少なくない。そのウクライナ人にフェザー時代、黒星をなすり付けたブルファイター、オルランド・サリド(メキシコ)も虎視眈々とリマッチのチャンスを狙う。

ロマチェンコは日本で内山高志(ワタナベ)に2連勝したWBA“スーパー”王者ジェスレル・コラレス(パナマ)との統一戦がオファーされたが、交渉は成立せず。最終的にWBA“レギュラー”王者ジェイソン・ソーサ(米=15日に王座返上)と4月8日対戦する運びとなった。ロマチェンコとは対照的にアマチュアキャリアは3戦というソーサ(20勝15KO1敗4分)だが、これまで骨のある相手を下しており、予想は絶対不利ながら好勝負を期待する声が多い。それでも発表会見でロマチェンコは「本当はソーサの代わりにサリドと対戦してリベンジしたかった」と心境を告白。サリドが体重オーバーでリングに上がった因縁もあり、両者とも再戦を強く希望している。

内山の去就、もし再起するなら誰と戦うかも興味深い。またコラレスが名前が浸透した日本で再び防衛戦を戦うのか、あるいは一気に本場でビッグマッチ志向に転じるのかも気になるところだ。内山に勝ったとはいえ、パナマ人が上記の選手たちと拳を交えてどんな結果が出るかも関心が集まる。ひょっとするとコラレスvs内山第3戦も近いうちに実現するかもしれない。

お楽しみはこれからだ

ここまで紹介した選手たちは、かなりの可能性で対戦が実現すると思われる。これに先に触れたIBF新王者デービスが加わる。PBCのイベントでリングに上がるデービスは他の団体のチャンピオンや元王者との対決実現にハードルがある。しかしロマチェンコや三浦との対戦を想像するだけで胸が高まる。メイウェザーの薫陶を受けているとはいえ、17勝16KO無敗のデービスもアグレッシブな、ハートを前面に戦うタイプである。

激闘を物語る三浦の顔面(PHOTO/GBP)
激闘を物語る三浦の顔面(PHOTO/GBP)

スーパーフェザー級は80年代前半、ボビー・チャコン(米)、バズーカ・リモン(メキシコ)、コーネリアス・ボザ=エドワーズ(ウガンダ)、ローランド・ナバレッテ(フィリピン)といった超好戦的な選手がリーグ戦のように対戦して盛り上がりを見せた。現在のラインナップは豪華さや個性で先達たちを凌駕している観もある。おそらくライト級以上へ転向してしまう選手も出てくるだろうが、どのカードを想像してもインディオのリングの再現が保証される。

バルガスvsベルチェットを裁いたレフェリー、ラウル・カイースJrのユニホームは返り血で染まっていた。三浦戦やサリド戦のようにバルガスの顔は変形していた。勝ったベルチェットも代償を被った。三浦の顔もボコボコになっていた。みんな、自国のボクシング文化の伝道師だった。