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山中慎介の挑戦者候補ルイス・ネリーはこんな男だ

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
挑戦者決定戦で快勝したネリー。PHOTO/ZANFER

正式に指名挑戦者に

メキシコ人挑戦者カルロス・カールソンから5度ダウンを奪う圧勝で12度目の防衛に成功したWBC世界バンタム級チャンピオン山中慎介(帝拳)。日本のスポーツ紙の報道によると、具志堅用高(元WBA世界ライトフライ級王者)が持つ日本記録13回連続がかかる次回防衛戦はランキング1位ルイス・ネリー(メキシコ)を相手に行われる可能性が大きいという。米国カリフォルニアと接するメキシコ・ティファナ出身。“パンテラ”(ヒョウ)のニックネームで呼ばれる22歳のサウスポーのボクサーパンチャーだ。

ネリーは11日夜(日本時間12日)メキシコシティのアレナ・シウダー・メヒコに登場。WBCバンタム級挑戦者決定戦と銘打たれた試合で、ヘスス・マルティネス(コロンビア)に4回終了TKO勝ち。戦績を23勝17KO無敗と伸ばし、山中への指名挑戦権を手に入れた。このネリーvsマルティネスは記録サイト、ボックスレクなどでは「挑戦者決定戦」とは記されていない。マルティネスが上位15位圏外から最新ランキングでいきなり5位に抜擢されたのが目立つ。これは、この日のプロモーター、サンフェル・プロモーションズとメキシコに本部を置くWBCの親密さを物語るものといえる。ネリーを山中にぶつけたいサンフェルがWBCに強引に試合を承認させたと推測できるのだ。

ともあれリング上ではネリーが1位に相応しい試合を披露。サウスポー対決は自信満々、攻め込むネリーがスタートから支配。初回はタイムキーパーのミスで4分以上戦うハプニングがあった。これは高地(メキシコシティは標高2,200メートル)に慣れていないマルティネスにはハンディだったかもしれない。だがネリーも前日の計量で1回目リミット3ポンドオーバー。シャドーボクシングやサウナでやっとの思いで1キロ半を落とした。やはりロングラウンドは堪えたはずだ。

だが2,3ラウンド、右ジャブから左右強打につなげるネリーの重厚なアタックがマルティネスを襲撃。4ラウンド、ダメージングブローを叩き込んでストップ寸前に追い詰めたネリーに、コロンビア人は5ラウンド開始ゴングにコーナーを立つことができなかった。

マルティネスを圧倒する黒ヒョウ、ネリー。PHOTO/ZANFER
マルティネスを圧倒する黒ヒョウ、ネリー。PHOTO/ZANFER

ディフェンスに改良の余地あり

これで4連続ストップ勝利。昨年ネリーは地元ティファナで元WBAスーパーフライ級暫定王者ダビ・サンチェス(メキシコ)や3度世界挑戦歴を持つリッチー・メプラナム(フィリピン)に印象的なTKO勝ちを飾っている。これらの試合同様、今回のマルティネス戦も彼のベストパフォーマンスに挙げられる。何よりアグレッシブだ。一度、強打でダメージを与えると集中打で畳み掛ける。相手はディフェンスに追われ、リカバリーできない。相手を追い込む馬力、ラッシングパワーがこの選手の長所で魅力である。

反面、マルティネス戦でも見られたが、ガードが開く瞬間があり、相手のパンチをもらうシーンがある。今回の一戦でも初回、右フックを被弾した。山中と対峙した場合、このディフェンスの甘さを改善しないと、致命傷になりかねない。ただ日本流にいうと一回り年長の山中が勢いで押されると、展開は予断を許さない。もっとも山中本人も彼の陣営もそのあたりのケアに抜かりがないはずだが・・・。

このネリー、1年ぐらい前までは1階級下のスーパーフライ級で世界挑戦を目指すと公言していた。ターゲットもWBO同級王者マーロン・タパレス(フィリピン)だとインタビューで答えていた。バンタム級に標的を定めたのは体格的な問題よりも、WBC米大陸王座、同シルバー王座と地域タイトルホルダーに就いたことが理由だろう。加えて山中が君臨するWBCバンタム級王座は、メキシコでは文字通り「黄金のバンタム」と畏怖される権威がある。

昨年地元でサンチェスに5回TKO勝ち。PHOTO/筆者
昨年地元でサンチェスに5回TKO勝ち。PHOTO/筆者

ボクシングは生活のため

アマチュアのトップ選手からプロでも大成する選手が多いメキシコだが、ネリーは元々プロ志向だった。

グローブを握ったのは14歳の時。祖父とおじが元ボクサーという背景があるが、子供の頃からテレビで試合を見て憧れたという。17歳でアマチュアのリングに上がり、「ダメだったら、ボクサーを断念する」という覚悟で臨み、3ヵ月で9勝5KO無敗。そのままプロの世界へ飛び込んだ。

家庭は極貧ではなかったが、家計は苦しく「ボクシングはディネロ(金)ため」と断言する。同時に「個人的な問題があった」と告白していることから、17歳までにドラッグなどのトラブルがあったようだ。「父や兄弟もやっていた・・・」と明かしていることからも憶測される。「ボクシングは(人生から)墜落しないためだった。何かスポーツをしなければ」と振り返る。

チャベスが太鼓判

マルティネス戦では試合後、左拳を痛めたような様子も見せたが、腫れ上がっただけのようだ。サウスポーを相手に選んだことでも山中を意識している。山中戦に関しては「3ヵ月みっちりトレーニングして臨みたい。試合はもう締結したのも同然だと聞いている。特別、キャンプは予定していない。いつもどおりティファナのジムで調整すれば十分だ」と淡々と語る。

アイドル視するボクサーはマニー・パッキアオ、フアン・マヌエル・マルケス、フリオ・セサール・チャベス(父)。攻め立てる姿はまさにヒョウを連想させる。テレビ解説者のレジェンド、フリオ・セサール・チャベスは「パンテラ・ネリーには世界チャンピオンの匂いがする」と期待をかける。サンフェル・プロモーションズの試合を担当する“身内”の発言としても、このサウスポーにはメキシコ全土から黄金のバンタム奪回の使命が寄せられる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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