生活保護費のプリペイドカード支給では、生活保護利用者の行動は改善できず、不正受給対策もできない

ただいま、Y!ニュース「意識調査」で、

生活保護費のプリペイドカード支給、どう思う?

が回答募集中です(2015年2月4日まで)。

選択肢と現在の内訳は、以下のとおりです。

  1. 過度な飲酒やギャンブルを防げるので賛成(22,075票、46.8%)
  2. 家計の収支を把握して自立を助けるので賛成(5,054票、10.7%)
  3. 生活保護費が適正に支給されるので賛成(12,965票、27.5%)
  4. 金銭給付の原則に反して違法なので反対(2,141票、4.5%)
  5. プライバシー権を侵害するので反対 (1,401票、3.0%)
  6. 使える店が限定されて不便が生じるので反対(2,759票、5.8%)
  7. その他(791票、1.7%)

圧倒的多数の皆様が、賛成していらっしゃいます。

でも、本当にその期待に応えてくれそうな取り組みなのでしょうか?

この問題については、1月23日午前0時30分公開予定の連載「生活保護のリアル」次回で、詳細なレポートを予定しています。

本記事では、設問に沿って、軽めに解説します。

メリットなし、デメリットのみ、カード会社が儲かるだけ

私自身は「その他」です。

理由は

「期待されている問題解決には役立たないし、さまざまな問題を新しく引き起こすことは確実で、カード会社の利益以外のメリットがないから、反対」

です。

なぜメリットにつながらないのか

1.「過度な飲酒やギャンブル」に対して、管理は「火に油」

アルコールやギャンブルへの依存症をお持ちの方は、依存症に対する治療を受けていただかなくては治りません。

治療を受けていただくことは、ケースワーカーの「助言・指導」で行えますし、実際に行われています。

依存症の治療では、他者によって管理することは逆効果です。手段が人によるものであれ、カードなどのモノやシステムであれ、同じことです。だからプリペイドカードは、依存症による浪費については逆効果ということになります。

「酒やギャンブルの総量を制限する」という効果も、依存症の方に対してはまったく期待できません。依存対象に近寄ることがどんなに困難でも、依存症者は乗り越えてしまいます。ハードルが高くなればなるほどエスカレートします。

ですので、結局は依存症として治療を受けていただく以外の方法では解決しません。

現在それを妨げている最大の要因は、ケースワーカーの不足です。

大阪市はケースワーカーが非常に少なく、毎年、厚労省から改善を指示されています。

昨年は一人で400世帯を担当していたという例もありました。

このことは拙記事でもレポートしています。

生活保護のリアル:ケースワーカー1人が480世帯を担当する区も! 生活保護行政をめぐる大阪市の「暴走」(3) ――政策ウォッチ編・第67回

2.「家計の収支を把握して自立を助ける」はカードにはできない

家計管理能力のない方、浪費癖のある方は、ギャンブル依存症の方以外にも数多くいます。さまざまな障害や疾病によって家計管理ができなくなることもあります。

そういう方々に対しては、「週割り」「日割り」での生活保護費支給が可能ですし、実際に行われています。

対象となる生活保護利用者の方々は、毎週または毎日福祉事務所に出向き、その週・その日の保護費を受け取ります。ついでに助言・指導も受けることになります。相談があれば相談できます。

カードにできることは、ただ一ヶ月あたりの総額と、週・日あたりの上限額(今回の大阪市の例では「一日あたり2000円を上限とする」という話もあります)を設定することだけです。

ケースワーカーによる助言・指導の機会を増やし、生活保護利用者が相談しやすくなることこそが、最大の解決です。

大阪市でそれを妨げているのは、上記のとおりケースワーカー不足です。

大阪市は、せめて国の定めた基準(都市部ではケースワーカー1人あたり80世帯)を満たしてから、プリペイドカード化を言い出してほしいものです。

3.「生活保護費が適正に支給される」は、支給形態と無関係

これは意味が取りづらい設問ですが、「不適正に支給される」、つまり不正受給を予防できるのではという期待があると解釈して、それに対する見解を述べます。

生活保護利用者による不正受給は、主に就労収入隠し、ついで資産隠しです。その他のパターンもあるにはありますが、非常に少ないのでシステムで対処する必要はないかと思われます。いずれにしても、その自治体がその人に支給する生活保護費と無関係なところで起こっているわけですから、生活保護費のプリペイドカード化では何の対策にもなりません。

貧困ビジネス・医療機関等による不正受給はなおさら、プリペイドカード化では防止できません。

ちなみに不正受給自体が非常に少ない(金額ベースで0.5%前後を推移)わけですから、これに対処するために巨額の投資をするメリットはないかと思われます。私はもともと実験屋だったので、生活保護費の不正受給は「ノイズ」「外れ値」のようなものに見えます。ないことが望ましいけれども「減らす」がせいぜい、なくすためには膨大な労力とコストが必要で、そちらに注力したら本末転倒になってしまうようなもの、と認識しています。

生活保護利用者による不正受給については、収入は正直に申告していただく必要があることをまず周知し(「知らなかった」が多いんです)、申告漏れは注意し、なお申告されないのならば摘発することが対策です。

資産についても同様です。多額の資産があるのならば、そもそも生活保護の受給資格がないわけですが、生活保護は申請から原則2週間以内で可否を判断しなくてはなりません。2週間では調査しきれない場合もあります。その後で判明した場合(「本人が忘れていた」ということもあります)の取り扱いを周知し、なお隠すようなら摘発することが対策です。

いずれも、保護費の支給形態ではなく、金額そのもの・受給資格の有無そのものにかかわる問題です。

支給形態を「プリペイドカードにする」ではなんの解決にもなりません。

4.「金銭給付の原則に反する」を認めたら、いずれは納税者も同じ目に

社会的に立場の弱い人に対する例外を一つ認めたら、いずれは、より多くの人に例外が拡大されます。

派遣労働の拡大とイメージの変化、さらには今議論されている「ホワイトカラーエグゼンプション」が良い例です。

「給料がプリペイドカードで支払われ、その使途を会社が把握」

という気持ち悪い近未来がイヤなら、今、生活保護利用者に対して例外を認めてはいけません。

給料もまた、現金で支払うことが法で定められているから、現金で支払われているのです。

5.「プライバシー権を侵害する」は、みんなイヤでしょ?

「悪いことをしているわけでもなんでもないのに、自分のお金の使い道を他人が知ってとやかく言う」

は、誰もがイヤだと思います。

今、生活保護利用者に対して、さまざまな屁理屈によって容認したら、いずれは納税者であっても同じ目に遭うことになります。

カード会社は顧客のお金の使い方を知りたくて知りたくてたまらないわけです。雇用者も、被雇用者を管理するために便利な情報だから欲しいでしょう。

そんな気持ち悪い将来を避けるためにも、今、生活保護利用者に対して適用されることにNoを言うべきです。

6.「使える店が限定されて不便が生じる」は、生活保護利用者の「自立の促進」を阻害

生活保護利用者の方々の多くは、涙ぐましいほどの生活コスト削減をし、自分の考える自分の自立に対する費用を捻出していることが多いです。就労自立は、日常生活を少しずつでもより良く充実させることの延長にしかありません。

安売り店が、プリペイドカードに対応できるとは限りません。たとえば、野菜の引き売りとか。大阪市内にはないかもしれませんが、無人販売スタンドとか。

「生活保護だから」という理由で、より安く・より良いものを入手する手段を制約されるなんて、ありえない話です。

「メリットなし、デメリットのみ、カード会社が儲かるだけ」だから、やめるべき

以上、生活保護費の一部といえどもプリペイドカード化は、自分を「納税者」と自己規定されている方々が期待しているメリットをまったく実現しない上に、法に定められた原則違反であり、生活保護利用者も含めて将来的には皆さんの生活の質を落とす可能性があります。

カード会社が儲かるだけで、それ以外の人々には何のメリットもありません。

米国のSNAP(フードスタンプ)も、同じような趣旨で導入されたものの、「カード会社が儲かった」以外のメリットはなく、多大なデメリットを生んでいます。

ここまでメリットがなく「デメリットのみ」と最初から分かっていることは、やめるべきです。