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オーガニックな子育て、『シュタイナー教育』とは?

宮下幸恵NY在住フリーライター

Tofu、Soy Source、Panko。

これ全て、ニューヨーク(マンハッタン島でもその周辺でも)の地元スーパーで簡単に手に入る日本食材だ。豆腐に醤油、パン粉。Tofuはスムージー用にと「Super Soft」なんて種類もあるし、醤油に至っては「Tamari」だってある。アメリカ育ちの人が、どれだけ違いを分かっているのか不思議なんだけど・・・。

インターナショナルコーナーに行けば、アジアだけでなく、世界各国の調味料や食材が手に入る。アメリカ中部のオハイオ州や南部のアラバマ州へ行ったって、これほど種類はないし、買う人だっていない。そんな多種多様な文化が入り交じる場所だからこそ、じわりじわりと浸透している教育法がある。

それが『シュタイナー教育』だ。

聞き慣れない名前かもしれないが、NYマンハッタン島にある私立幼稚園情報がギュっと詰まった、いわば園選びの指南書「The Manhattan Directory of Private Nursery Schools」のなかでも、イタリア発祥のモンテッソーリ教育などと並び学校の種類の1つとして紹介されており、選択肢としてメジャーなものだ。

メジャーな選択肢の1つ

明るい陽射しが降り注ぐAVCCの教室
明るい陽射しが降り注ぐAVCCの教室

秋深まるとある土曜日。友人ママに誘われて、ローワーマンハッタンで在米日本人向けにシュタイナー教育を取り入れたクラスを行う「アップルビレッジチルドレンズセンター」(以下AVCC、http://avcc.blog.fc2.com/)での親子教室に参加してみた。

近くには、 映画「恋人たちの予感」に登場し世界的に有名な観光名所となった伝説のダイナー、カッツ・デリカッセンがあり、真新しいコンドミニアムと古い趣を残した建物が混在する、お洒落なエリアに目的の教室がある。

これが、クラスに足を踏み入れてビックリ!!

マンハッタンでの習い事では、「窓の外は隣のビルの壁」なんて事も珍しくないが、ここは違う。

大きな窓から太陽の陽射しが燦々と降り注ぎ、テーブルも椅子も、子供用キッチンもすべて木で出来ている。世の中の不条理を少しは知ってしまった腹黒い私、いやオトナには、クラっとするほど『純』なものばかりなのだ。もちろん、テレビもDVDもない。

壁には、抱っこする赤ちゃんに優しい眼差しを向ける女性の絵が・・・。

「これシュタイナーさん?」

いえいえ、ママ友よ。シュタイナーさんは男性、おじさんですから。

シュタイナーって何?誰?

シュタイナー教育とは、オーストリア出身の神秘思想家、ルドルフ・シュタイナーが構築した人智学をもとに1900年代初頭に登場した教育方法だ。

世の中が産業革命に沸き、一気に近代化へ加速する1919年。ドイツ・シュツットガルトのたばこ工場で働く人たちの子供のため、シュタイナーが学校を開いたのが始まりだった。

猛スピードで変化する社会のなかにあってこそ、人間の普遍性を大事にしたシュタイナー。季節が春から夏、夏から秋へと移り変わるように、人間は大きな流れの中で育っていく。首が座る前に歩き出す赤ちゃんはいないし、言葉だって1つ覚え、2つ覚え、そこからどんどん文章になっていく。

早くから計算や文字を教え込むのは、成長の流れに逆らい逆効果でしかない。ならば、日々の生活や季節の行事を通して、人間の「基礎力」を磨こうというのが、シュタイナー教育だ。

シュタイナーは人間の成長を7年周期で捉え、特に産まれてから7歳まで、いわば乳歯が永久歯に生え変わる時期を大切にし、「世界は美しいもの」と解く。

なぜなら、子供は何でも吸収し、どんどん大きくなるスポンジのようなもの。わざわざ汚れた水を吸い込ませる親はいない。どんどん吸収するのなら、キレイな水を吸い込んで大きくなって欲しいと願うからだ。

わざわざ汚水を与えないのと同じく、食べ物や体に触れるものだって自然なものがいいというのがシュタイナー流。日本でも人気の自然派化粧品「WELEDA」は、シュタイナーによって作られたものだ。(WELEDAホームページ参照、http://www.weleda.jp/company/about/history.php

シュタイナー教育が「オーガニックな子育て」と呼ばれるのはこのためだ。

AVCCで指導する松尾タカエさん
AVCCで指導する松尾タカエさん

1928年に北米初となるシュタイナー学校「The Rudolf Steiner School」(http://www.steiner.edu/)がマンハッタン・アッパーイーストに誕生してからニューヨーカーの間で根強い支持を得るのは、広いアメリカのなかでも様々な国から移り住む人が多い「ニューヨークだからこそ」と言うのは、AVCCで指導する松尾タカエさんだ。

「やはりアメリカで生まれ育った人と、ヨーロッパから来た方とは食生活、経済、教育などの捉え方が違う。アメリカだけの価値観で物事を捉えるのではなく、いろいろな価値観を知っているからこそ、自分の子供にはどういう教育が必要なのか、どう育って欲しいかを考えた時に、シュタイナー教育にたどり着く」のだそうだ。

芸術を生活に

在米21年になる松尾さんは、2002年、NY郊外に位置するSchool of Eurythmy(http://www.eurythmy.org/school.htm)で4年にも及ぶトレーニングを受け資格を習得。2010年からAVCCで指導を行っている。AVCCでは週末に日本人向けのクラスを日本語で行っており、2歳から6歳まで約15名が通っていると言う。

私が参加したクラスで最初に言われた言葉は、これだった。

「シュタイナー教育で大事なのは、日々の生活に芸術を取り入れる事です」

『芸術』という言葉に身構えてしまうが、振り返れば誰でも行っている事もありそうだ。

しわくちゃのシャツにアイロンをかけてピシッと伸ばすのも『芸術』だし、彩りを気にして食事を用意すればご飯だって立派な『アート』になる。

散歩の途中に拾ったどんぐりや落ち葉を家に飾るだけでも『芸術』だし、自然と触れ合い季節を感じることにもなる。

私が参加したクラスは入門編だったため、シュタイナーの7年周期を表す円グラフをママさん達が作成。「自分の経験と照らし合わせてみて」なんて言われたが、グズる娘のケアで、正直そんな余裕はなかった(涙)。

ランチは、玄米のおにぎりに、野菜たっぷりの優しい味のスープ。これまた、娘の機嫌が悪くゆっくり味わえなかったのが残念だが、なんとなく雰囲気だけはつかめた気がする。

実はすでにシュタイナー教育実践者?!

芸術を通して学ぶなんて敷居が高そうだが、アイロンがけや料理の手伝いと聞けば、実は誰でもすでにやっている事も多い。

自然を大切にし、子供の想像力を伸ばすシュタイナー教育では、「テレビ禁止」「既製品のおやつ禁止」と、禁止事項だけがクローズアップされることもあるが、松尾さん曰く、「100年前の教育法なので、時代に応じて変化してもいい」と柔軟だ。

「テレビ見たいのに、見れない!」と親がストレスを抱えるより、「少しぐらい見せても良い」と気楽に構えた方が親がストレスを抱えず子供と接することができる。何でも程度の問題なのだ。

子供に過度の刺激を与えないため、この教育で独特なのは、お絵描きでは赤や黄色、青などの原色を用いず、淡く優しい色合いの絵の具を使う事や、毎日違う絵本を読み聞かせるのではなく、3週間ほど同じ話を続けて話す「素話(すばなし)」と呼ばれる読み聞かせの手法がある。

子供たちが秘密の小屋にしてしまいそうな空間もある
子供たちが秘密の小屋にしてしまいそうな空間もある

AVCCのクラスに置かれている椅子、テーブル、おもちゃがすべて木材でできており、人形は触っただけでぬくもりを感じるような羊毛が使われている。機械仕掛けのおもちゃよりも、シンプルな木のおもちゃこそ、どうやって遊んだら面白いのかと子供の想像力をかき立てるのだという。

「芸術を取り入れなくちゃ!!」なんて気構えなくても、毎日夜寝る前に1日あった事を子供に語りかけるのも素話になるのかも。季節を感じながら、日々のちょっとした事を子供と共有していく。これが、始めの一歩になりそうだ。

羊毛でできた鳥の人形
羊毛でできた鳥の人形

来月は、シュタイナー教育の先に見える理想の子育てとは?! 12月下旬に掲載予定。お楽しみに〜!!

《予告》

「あなたは、あなたらしく過ごしてますか?」

NY在住フリーライター

NY在住元スポーツ紙記者。2006年からアメリカを拠点にフリーとして活動。宮里藍らが活躍する米女子ゴルフツアーを中心に取材し、新聞、雑誌など幅広く執筆。2011年第一子をNYで出産後、子供のイヤイヤ期がきっかけでママ向けコーチングの手法を学ぶ。NPO法人マザーズコーチ・ジャパンの認定コーチに。『「ダメ母」の私を変えたHAPPY子育てコーチング』(佐々木のり子、青木理恵著、PHP文庫)の編集を担当。

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