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五輪柔道初日は男女アベック銅メダル!金メダルの呪縛から銅メダルへ

溝口紀子スポーツ社会学者、教育評論家
写真:ロイター/アフロ)

リオ五輪初日に登場した柔道48キロ級近藤亜美(三井住友海上)、60キロ級高藤直寿選手(パーク24)が銅メダルを手にしました。

女子48キロ 近藤が銅で日本勢初のメダル獲得

男子60キロ級の高藤、銅メダルに涙!「4年後は金にしたい」

(写真YUTAKA/アフロスポーツ)
(写真YUTAKA/アフロスポーツ)

喜びの銅メダルと思いきや、日本人メダル第一号になった近藤選手、そして同しく銅メダルを獲得した高藤選手はともに、銅メダルを取っても「誠に申し訳ない気持ちで一杯です」と涙ながらに語りました。

なぜ日本柔道家は銅メダルを獲得しても喜べないの?

「お家芸」と呼ばれる柔道。これまで数多くの世界チャンピオン、五輪チャンピオンを輩出してきました。

とりわけ、オリンピックの日本柔道における国民の期待と選手が受けるプレッシャーは、他の競技種目にはない独特なものがあります。

私自身も例外ではなく、実際、1992年のバルセロナ五輪で銀メダルを獲得したときには、「柔道は金メダルしか認められない」と感じ当時は喜べなかったのものです。日本代表選手になると「柔道の場合、チャンピオンはひとりだけ。銀や銅では意味がない。」という意識が当然のものとして植え付けられていたのです。

ですが、前回の2012年のロンドン五輪では男子は金メダルゼロに終わってしまいました。日本選手は「お家芸」という看板や掛け声、そして「正統」「伝統」に縛られ、世界で進化していく多様な技術に対応できていなかったのです。

そういう意味でも今回のリオ五輪は日本柔道の復活、複数の金メダルが悲願となっています。

さらに五輪前半に行われる柔道はメダル獲得が期待されているだけに、日本チーム全体の士気にも影響します。

そんな中で、初日に臨んだ日本代表の二人にとって、これまで以上に大きなプレッシャーがあったと思います。

金メダルの呪縛からの解放

けれども金メダルを期待されながら二人は決勝に進出することができませんでした。

とりわけ、「柔道の場合、チャンピオンはひとりだけ。銀や銅では意味がない」という自負がとても強い中で、敗北し一度、夢を失った中で短時間で気持ちを切り替えることは容易ではありません。

こう言う状況になると、もはや「自負」ではなく「金メダルの呪縛」となってしまいます。

このような状況の中で、「金メダルの呪縛」を自らが解き放ち、最後まで戦い抜き獲得した銅メダルはとても意味があると思います。

「銅」という字は「金」と「同じ」と書きます。一度負けても諦めずに戦いきって最後に勝ってもらう銅メダルも、金メダルと同じくらい価値であることをおそらく後々知ることになるでしょう。ぜひ胸を張って欲しいと思います。

参考図書『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研

スポーツ社会学者、教育評論家

1971年生まれ。スポーツ社会学者(学術博士)日本女子体育大学教授。公社袋井市スポーツ協会会長。学校法人二階堂学園理事、評議員。前静岡県教育委員長。柔道五段。上級スポーツ施設管理士。日本スポーツ協会指導員(柔道コーチ3)。バルセロナ五輪(1992)女子柔道52級銀メダリスト。史上最年少の16歳でグランドスラムのパリ大会で優勝。フランス柔道ナショナルコーチの経験をもとに、スポーツ社会学者として社会科学の視点で柔道やスポーツはもちろん、教育、ジェンダー問題にも斬り込んでいきます。著書『性と柔』河出ブックス、河出書房新社、『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研。

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