フジテレビ「ほこ×たて」のヤラセ 「以前からあった」なら“社長辞任” “民放連除名”も

突然の記者発表

フジテレビの「ほこ×たて」で発覚したヤラセ問題。10月24日にフジテレビが発表した内容によると「収録の順番や対戦の運営方法について不適切と思われる演出が確認された」という。「放送を当面自粛する」ことも発表された。

いったい何があったのか?

問題となったのは10月20日に放送された『ほこ×たて2時間スペシャル』。その中のコーナー「絶対命中スナイパー軍団VS.絶対逃げるラジコン軍団」で、アメリカのスナイパー軍団が、日本のラジコン軍団と対決するというコーナー。高速で動き回るラジコン車やラジコンヘリ、ラジコンボートを銃で撃つことができるか、ラジコンの操縦者3人と狙撃者3人が「対決」した。

番組を見ると、登場するのが、スナイパー軍団は元空軍のジョージ・レイナス。射撃世界チャンピオンの女性スナイパー、レヤ・キンプレイ。8歳から射撃を始めた海軍最強スナイパーという40歳のベテラン、クリス・リードの3人だ。

一方のラジコン軍団は、ラジコンカー世界選手権14連覇の実績を持つ広坂正美。ラジコンヘリ世界チャンピオンの野々垣貴士。ラジコンボート100メートル1秒78という日本記録保持者の坂孝生の3人。

番組では、「先鋒」「中堅」「大将」の3対3の勝ち抜き戦で勝敗を競うとされ、勝った方が勝ち残って次の相手と対戦していく仕組み。

「我々日本人が作ったラジコンは絶対に逃げ切ります」とラジコン軍団が宣言。スナイパー軍団は「我々アメリカ人スナイパーはどんな物でも狙い撃つ」として、日米決戦の様相を呈した。

放送では、第1戦は、ラジコンヘリの野々垣VS海軍最強のクリス。

ルールは、対決時間3分間。スナイパーは5発撃てる。この間、弾が当たればスナイパーの勝ちで、当たらなければラジコンヘリの勝ちになる。

第1戦は、4発目、5発目が当たり、クリスの勝利。

第2戦は、勝ち残ったクリスVSラジコンカーの広坂の対決。

会場は、暗闇の空き地。対決直前にクリスと広坂が向かい合って会話するシーンがある。

ルールは、対決時間は2分間。銃弾は5発。

この間に弾が当たらなければラジコンカーの勝ち。弾が当たればスナイパーの勝ち。広坂がリモコンを動かし、ライフルを構えるクリス。残り時間が1秒になったところで4発目、5発目の銃弾がラジコンカーに当たり、広坂は敗れる。

対決2日目に、クリスVSラジコンボート。ラジコンボートを操る坂がクリスに挑戦する。

ルールは100メートルの範囲内をボートはいくらでも動ける。スナイパーは何発でも撃てる。スタートからゴールまで弾が当たらずにボートが進めばラジコンボートの勝利。当たればスナイパーの勝利。

さて、この勝負は坂のラジコンボートが勝利する。

そこでスナイパー軍団は女性のレヤ・キンプレイが「中堅」として登場。しかし、レヤも弾を当てられずに、敗退。「大将」のジョージ・レイナスが登場するが、これも無傷でゴールへ。けっきょく、ラジコン軍団は2連敗の後の3連勝で日本が勝利する。

ところが、出場したラジコンメーカー「ヨコモ」の広坂正美が同社のホームページ上で以下の事実を明らかにしたことから問題が発覚した。

放送は実際の収録とは違っていた

実際の収録では、最初に行われた対決ではラジコン軍団は「先鋒」がラジコンボートだった。それが3連勝したので日米軍団の対決はそこで勝敗がついていたという。

そこで、ラジコンヘリやラジコンカーとスナイパーとの対決も見せられるように順番を入れ替えることが決まり、撮影が 行われたというのだ。

放送を見ると、広坂のラジコンカーはひげ面の大男クリスと対決している。

しかし、広坂がHPに明らかにした文章によると、撮影時に実際に対決したのは女性のレヤだった。しかもルールも放送したルールとは違っていて、制限時間も、放送で伝えられた「3分」ではなく「2分間」。銃弾も、放送で伝えられた「5発」ではなく「3発」。「最初の1 分間は撃ってもよいが、決してラジコンカーに当ててはならない」「実際の真剣勝負は残りの1分間で、1分間の中で3発のみ撃てる」というルールだったという。ところが開始わずか数秒でレヤがルールに違反して車に銃弾を撃ち込んだ。ボディーが外れて飛び散って しまった。さらに2発目がバッテリーに命中、その後も立て続けに連射され、1分経たずにラジコンカーはバラバラに破壊されてしまったという。

撮影は一旦中断、レヤは広坂に対し「弾が当たってしまいました。すると後ろから殺せという声が聞こえてきたので、つい連射してしまいました。ごめんなさい」と話したという。

ラジコンカーは現場では修復できず、広坂は制作スタッフに番組への出演辞退を申し出た。同時にスナイパー側と制作スタッフ側も揉め、「スナイパーVSラジコンカー」は正式な対決がないまま中止となった。

ところが、放送は「クリスとラジコンカーが対決。クリスが残り1秒で勝利した」となっている。対戦相手も入れ替えられ、勝負の結果も事実とは異なって放送されている。

出演者の警告を聞かなかった制作陣

広坂は放送前に制作会社から編集内容を知らされたと記している。

あまりにも曲げられて作られていたため、編集責任者に対し「反則した相手が負けになるのであればまだ納得出来ますが、もしこの内容で放送された際には、事実を発表します」と忠告し、内容を偽って作らないよう要請していたのですが、非常に残念な事に偽造編集したものが放送されてしまったのです。

出典:ヨコモのホームページに発表された広坂正美の文章

そこで広坂が自分の会社のHPに事実を明らかにしたのが今回のヤラセ発覚の発端となった。

広坂は、自身が出演した『ほこ×たて』の過去の放送分でも以下のようなヤラセがあったと告発している。

2011年10月17日に放送された鷹との対戦も大変不本意なものでした。「鷹がラジコンカーを追いかけて来ないので、鷹がラジコンカーに慣れるまで練習させた上で再戦して欲しい」、「鷹が逃げるので鷹が追いかけて来るよう、ゆっくり走らせて欲しい」、「本番の時にはカメラ写りが良くなるよう、カメラ側の敷地内を使って走らせて欲しい」などとスタッフから要求されました。これでは捕まって当然です。現実はスタッフの考えとは異なり、勝負をするところまでいかなかったのです。事実はラジコンカーの圧勝でした!

出典:ヨコモのホームページに発表された広坂正美の文章

2012年10月21日に放送された猿との対戦の際には、猿がラジコンカーを怖がって逃げてしまうので、釣り糸を猿の首に巻き付けてラジコンカーで猿を引っ張り、猿が追いかけているように見せる細工をしての撮影でした。

出典:ヨコモのホームページに発表された広坂正美の文章

もしこれが本当なら、動物虐待の疑いも出てくる。そもそも毎回のように、真剣勝負ではなかった、ということになる。

フジテレビは10月24日の会見で過去の「全放送分をチェック」すると発表している。

バラエティー番組とはいえ、ガチ勝負だと思わせておいて、実はねつ造があった、となると問題は相当に深刻だ。

もし、過去にさかのぼって「ねつ造」が明らかになった場合、フジテレビで経営トップである社長の辞任は避けられないと私は見る。

フジテレビへの民放の業界団体である日本民間放送連盟からの「除名処分」も避けられないだろう。

むしろ、他の民放全体に飛び火する前に、フジテレビが率先して、自らそうした決断をすべきだと思う。

真剣勝負のようにみせかけて、視聴者を長期間偽っていたとすれば、バラエティであっても、視聴者への裏切りに他ならず、その罪は重い。

『ほこ×たて』の問題は、こうしたヤラセなどの問題は、放送に関するお目付け機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送倫理検証委員会」で審議の対象になることは間違いない。それと相前後して社内調査が進められて、番組の打ち切りや関係者の処分、検証番組の放送が行われるだろう。

『あるある大辞典』との共通点

以下、今回の問題が「社長辞任」と「民放連除名」に行き着く他にない理由を述べる。

それは過去のあるテレビ番組の事件と今回の事件が似ていることだ。

バラエティ番組のねつ造やヤラセが明らかになったケースといえば、2007年1月7日放送の関西テレビ(フジテレビ系)の『発掘!あるある大事典2』が有名だ。

この番組は、食べればダイエット効果がある食材として「納豆」を取り上げたが、様々なデータをでっち上げ、実験とは関係ない写真を使用したり、外国人専門家のインタビューを実際には言っている内容と違う形に翻訳して「吹き替え」をしたりするなど、数々のねつ造が見つかった。

「納豆」が発端になり、過去の放送をさかのぼって調べてみると構造的に「ねつ造」が行われていたことが明らかになった。社長は辞任。弁護士や学者などによる第三者による検証委員会や再発防止委員会が社内に出来、関西テレビは一時、民放連を除名になった。

今回のフジテレビの『ほこ×たて』事件は、6年前の関西テレビの『発掘!あるある大事典2』の事件と驚くほど共通点がある。

第1に実際のVTRの制作に携わっていたのはテレビ局本体ではなく、制作会社だということだ。第2に「ねつ造」が過去の回にさかのぼって疑われること。第3に、どちらも高視聴率を誇る人気番組である点。第4に、広い意味では娯楽番組といえるジャンルだが、『あるある』が健康や食品に関する情報、『ほこたて』が日本企業の底力や魅力に関する情報を紹介するという、教養番組としての実質を伴う番組である点だ。

さらに見逃せないのが、ねつ造問題が発覚した時の「政権の顔ぶれ」が共通することだ。

関西テレビの「発掘!あるある大事典2」ねつ造発覚が起きたのは第1次安倍政権時代だった。当時、菅義偉総務大臣が、こうしたねつ造の際に国が放送局を行政処分できるようにする放送法改正案を国会に提出している。BPOに「放送倫理検証委員会」を新たに設置してチェックを強化するや関西テレビを民放連から除名することやねじれ国会もあって法改正をけっきょくまぬかれたもの、安倍―菅ラインが「放送への介入」を強くうかがっていることを印象づけた。特定秘密保護法案への並々ならぬ熱意をみても、安倍晋三首相、菅義偉官房長官という現在の政権中枢は、虎視眈々と「放送局への介入」を狙っている。

そんなさなかに起きた、フジテレビでのヤラセ。もし東京キー局での過去から継続してのヤラセだということになれば、放送業界に与えるインパクトは関西テレビの比ではない。場合によっては、安倍政権が放送法の改正の議論を蒸し返す良い口実になるだろう。今回、国会にねじれはない。政権に「その気」さえあれば、放送法改正を目指すことに躊躇はないだろう。

そうなると、ことは民放業界全体、さらにNHKにも影響が及んでくる。

フジテレビ社長の辞任。民放連からの除名は必至ということになる。むしろ早めに首を差し出して放送業界全体の自主的な放送チェック体制を死守しなければならないだろう。フジテレビのトップに就任したばかりの亀山千広社長にとっては大きな試練がいきなり訪れた感覚かもしれないが。

幸い、フジテレビ系列には6年前の『あるある』事件の事後処理の前例がある。あの時の関西テレビにならってフジテレビは早めに手を打つべきだろう。

ことが放送業界全体におよぶ前に亀山社長の迅速な決断が望まれる。

(敬称略)