日テレを研究した成果? NHK『ニュース7』で起きている変化

3月3日の「ニュース7」

夕方のNHK「ニュース7」がこのところ急速に”民放っぽく”なっている。

「ニュース7」は、ストレートニュースを中心にした番組で、少し前までアナウンサーが1人で動かずに伝えていた「ニュースらしいニュース番組」だった。

それがいつの間にはアナウンサー2人になってスタジオで動き回ったり、スタジオに立体的なCGを持ち込んでみたり、と「見せる工夫」があちこちで目につくようになった。

ニュース番組で1つの項目を伝える際に、アナウンサーがスタジオで伝える冒頭の部分をテレビ業界では「リード部分」と呼ぶ。

この後に放送される映像ニュースの要約など「さわり」を伝える導入部分だが、ここが急に変わってきているのだ。

NHKの「ニュース7」といえば、長く、日本のニュース番組のお手本・定番とされてきた。

(1)スタジオの「リード部分」→(2)「VTR部分」→(3)記者が生出演して解説、あるいは、出先の現場から記者が生中継でレポート、あるいは、解説などせずに(4)次の項目へ、というオーソドックスな流れ。

これを長く守ってきた。

アナウンサーも動き回ることはほとんどなく、スタジオで「座り」もしくは「立ち」というスタイルだった。

その「ニュース7」が、視聴者に少しでも多く見てもらおうという工夫を露骨なほどにし始めている。

昨夜(3月3日)の「ニュース7」など、アナウンサー2人が大きな映像を背負って立っていた。

どうしたことかと聞いてみると、NHKの関係者が「実は…」と、現在、NHKのニュース番組で起きている変化を打ち明けてくれた。

聞いてみて仰天した。

現在、ニュース番組の制作現場では、民放のある番組を徹底的に研究しろ、という指示が出ているのだという。

その民放のニュース番組とは、日テレの深夜ニュース「NEWS ZERO」だ。

タイトルや字幕などにライムグリーンの「番組カラー」を押し出し、櫻井翔や桐谷美玲などの人気タレントをキャスターに据えて、軽いタッチでニュースを伝える番組だ。

特に「若い世代」「女性の目線」を強く意識した番組づくりで人気がある。

視聴率でも同一時間帯のトップを独走する。CM前後の「ゼロ~」という、女性ボーカルのジングル(短めの曲)も印象的だ。

3月3日「NEWS ZERO」の巨大モニター
3月3日「NEWS ZERO」の巨大モニター

特に、スタジオに人の背丈の倍近い巨大モニターを置き、長めのニュースはキャスターがこの巨大モニター前に立って伝えるスタイルは2006年10月の番組開始から続いている。昨夜(3月3日)の放送でもこの巨大モニターの前で「リード部分」を伝えるニュース項目がいくつかあった。

画像を比べると、「巨大モニター」こそないものの、「ニュース7」が以前のオーソドックスなスタイルを大胆に脱ぎ捨てて「NEWS ZERO」のスタイルに近くなっていることがわかる。

局内ではこうした傾向を懸念する声も聞かれる。

中堅の職員はこう打ち明ける。

「局内では、『NEWS ZERO』のようにジャニーズのタレントがキャスターをやるようになるのでは?、とか、番組のカラーで統一したり、同じシングルが流れたりするのでは?、など揶揄する声も上がっています。NHKは昔ながらのオーソドックスなニュースの作り方に自信を持ってほしいと思いますが…」

かつて民放にいた私の経験では、NHKの記者といえば「民放など相手にしていない」という姿勢が嫌味なほどに強いものだった。

全国紙と張り合って他社を抜くのは当たり前、民放に抜かれるなんてことがあってはならない、という態度がありあり。

たまにはわれわれ民放がスクープを抜くこともあったが、本当にゴミのような連中にやられた、という感じで無視された。

記者やカメラマンなどの人数も民放の比ではない。災害や事故などの現場には大量のスタッフが投入されるのが常。

民放の報道マンとして、そんなNHKの記者たちを横目で見てきた人間からみれば、NHKがここまで民放を意識したり、たとえ一部でも民放の演出を模倣したりする、というのは信じられないことだ。

一体、何があったのか?

NHKも「視聴者離れ」に大きな危機感!

実は視聴率の調査を世代別にみると、最近、60歳以上、70歳以上の人たちはNHKの番組を見ているものの、働き盛りの50代以下の人たちがNHKを見ない、という傾向がどんどん強くなっているという。

そのことでNHKの幹部たちも危機感を募らせている。

「ニュース7」が危機感を強める背景には、インターネットのニュースが浸透したことが大きく寄与している。

数十年前まで、大きな事件などがあった際のは国民の多くは夕方7時にはNHKをつけて事実を確認する習慣があった。

しかし現在では、何があったかはスマホをみればわかる時代になっている。

またテレビでも夕方は民放のニュースが目白押しで、別に7時のNHKまで待つ必要はなくなっている。

とするとこのまま行けば、「ニュース7」の主な視聴者はインターネットを十分に使いこなせない70代の人ばかり、という傾向がますます強まってしまう…。

そうした危機感がNHKの報道局には根強いという。

「このままではNHKのニュースはネットを使わない70代の人間しか見ないものになってしまう。日テレをもっと研究しろ、と言われています。特に『NEWS ZERO』はなぜ比較的若い層に支持されるのかと真剣に見ています」

ある若手の報道局職員はこう語る。

その結果として、番組全体のトーンや雰囲気など、番組演出で「取っつきやすさ」を取り入れるような試みが行われ、昨夜のようなニュースのスタジオ「リード部分」の演出が”民放っぽい”ものが取り入れられる。

ちょうど今、高市総務相の「政治的公平性が守られない番組があれば、その局の電波を停止することもありうる」というたびたびの発言が大きな社会問題になっている。

新聞各紙が社説にするなど大きなニュースになっているのに、民放に比べてみてもNHKのニュースはこの問題を報道する回数やその放送時間はダントツといえるほど少ない。

政府・与党の反応を意識した番組づくりに加えて、視聴率を強く意識している結果、ともいえるかもしれない。

「伝えるべきニュースを伝える」ではなく「見てもらえるニュースを伝える」。

こうした本末転倒が進んでいる。

かつて自分が現役記者だった頃、本当に大きなネタ、オーソドックスな報道はNHKがやってくれる。だから民放の記者である自分はNHKがあえて報道しないニッチな報道をしよう、と小さなネタ、視聴者側からみれば「面白ネタ」を探し歩いた記憶がある。

そうしたNHKまで「面白ネタ」を追い求めるようになると…。

テレビ報道から「伝えるべきニュース」が消えていく。