「保育園落ちた」の背景 先行報道したのは国谷キャスターの「クロ現」だけ

「今頃になって…!?」という印象は強いが、「保育園落ちた日本死ね!!!」の匿名ブログを発端にして保育所の待機児童問題をマスコミも連日伝えている。

ネットで賛同署名が集められ、子育て中の主婦らが国会の外で抗議活動するなど共感の輪は今も広がり続けている。

このブログが訴えた、必要とする人が保育サービスを受けられないという問題。これでは女性が活躍などできないという問題提起だ。

「女性活躍社会」などという政府のキャップフレーズがありながら、保育所に入ることができず、なぜ待機児童問題は解決しないのか。

この背景にある保育所の深刻な問題に、ようやく新聞やテレビも目を向ける報道が出始めた。

やっと、という感じだ。

実はこのブログが大きな話題になる少し前に、保育園で起きている「異変」を相当にくわしく報道したテレビ番組があった。

私はテレビ番組をウォッチするのを仕事のひとつにしている人間だが、2月の番組をウォッチしていて気がついた。

番組内でこのブログの存在に触れているわけでもない。だが、この問題がこれほど世間の注目を集めている今の様子を見る限り、その番組の関係者の「先見性」と「ジャーナリズム精神」には感服するほかない。

その番組とは、

3月にキャスターが交代し放送時間も大きく変更になるNHK「クローズアップ現代」だ。

2月22日に放送された「クローズアップ現代」

『広がる“労働崩壊”~公共サービスの担い手に何が~』

京都市内のある保育所では財政削減の一環での民間委託に伴い、契約保育士全員が職を失った。このままでは働く人が食べていけなくなり、保育の質や安全が低下するのではと保護者に不安が広がっている。

出典:NHK「クローズアップ現代」HP

冒頭、子どもたちと保育士たちの泣き声が入り混じった映像で始まる。その場にいた関係者が撮影したものだろう。子どもたちから「先生」と呼ばれる保育士が大量に「雇い止め」にあって、この日でお別れという挨拶のシーンで子どもも保護者も保育士たちも涙に暮れている。

雇い止めのために大勢の保育士が去ることになったのは京都市にある公立保育所だ。

政府が2001年以降に進めた構造改革と各自治体での行政改革で徹底した効率化とコスト削減が公共サービスに求められた結果、公立保育所の民営化や民間委託が進み、そのしわ寄せで保育士が正規職員から非正規へ、さらに経営母体の変更で失業へ、経験ある保育士が次々に職場を離れていく、という現状を伝えている。

保育士は子どもたちを守り、のびのび育てるという誇りある仕事のはずなのに、待遇の悪化で子どもに向き合う仕事の質が劣化する。賃金が以前の半額になった保育士は「先のことが考えられない」と嘆く。そんな低賃金で過酷な保育の実態が描かれる。

スタジオでは国谷裕子キャスターがカメラを見据えて

「真っ当な暮らしができる賃金といえるのか」「技能を持った人が育つ待遇になっているのでしょうか」

と問いかける。

番組は、公立の保育所が減って私立の保育所が増えたこと、保育士の平均賃金が減少しているデータが示され、離職者が増え続けている実態を伝える。

保育士が一気に入れ替わったストレスで円形脱毛症になる子どもまで出ている。けっきょくこうしたシワ寄せはサービスを受ける側にやってくるのだ。

国谷キャスターは

「行政の効率化や無駄の削減が繰り返し言われてきましたが、なぜここまで来たのか。何が間違ったのでしょうか?」

と労働と貧困にくわしい中京大学の大内裕和教授に疑問を投げかける。

これに対して、大内教授は

「コスト削減が行きすぎて安心安全のコストを考慮しない労働ダンピングを引き起こしている」「雇用の劣化が保育の質など低下させている」

と解説していた。

思えば、多くの大学生が犠牲になったスキーバス事故でも

「コスト削減」「安心安全のコスト」「労働ダンピング」

の問題が見え隠れしていた。

施設での高齢者や障がい者への虐待など現代日本社会の歪みが表出されたようなケースが最近目立つが、その背景にこうした労働やコスト削減の問題がある思われるニュースは少なくない。

保育士の過酷で低賃金の労働などの問題は、制度への理解も必要なので、キャスターや制作者の能力が問われる分野だが、国谷さんは根っこの問題のありかを事前に勉強したと思われ(この人はどんなテーマでも深い見識を感じさせるがこの回も同様だった)、的確に質問を重ねていた。 

「保育所落ちた」ブログが話題になって以降、その背景として保育士の低賃金などを指摘する報道が増えてはいるとはいえ、このクロ現のように制度的な背景までしっかり踏み込んで伝える報道はテレビ・新聞も含めてほとんどないのが実態だ。

これまでも「派遣」「外国人労働」「マタハラ」「ブラック企業」等の“労働”問題に熱心だった「クローズアップ現代」。

話題になっている「保育園落ちた日本死ね!!!」のテーマを先取りしたように先見性を示していた。

それなのに皮肉なことにNHKは今月中に国谷キャスターを降板させるという決定を公表している。

放送の時間帯も変わり、別の番組に衣替えする。

そうなれば、こうした番組の質を保つことは難しいだろう。

キャスターだけ例に挙げても、日替わりで登場する女性アナたちには国谷さんの役割はけっして果たせない。アナウンサーはジャーナリストとしての訓練を積んでいないからだ。

今、話題になっている「保育園落ちた」ブログのニュースを見るにつけ、国谷さんが去るという大きな損失に思いが至り、ため息をつくばかりだ。

保育士が離職して良い保育を受けられないことのシワ寄せは、けっきょく本来ならサービスの受け手であるはずの子どもや保護者に回ってくる。

同様に国谷さんを失って良質な報道番組を見ることができないシワ寄せは、けっきょく受信料を支払う視聴者に回ってくる。

「国谷が去った◯◯◯死ね!!!」

後からそう叫んでみても、どうにもならないのだ。