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ゆれるLINEやフェイスブック等のSNSサービス ~ユーザの権利かサービス保護(通信の秘密)か~

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 教授
つながりを重視するSNS

本人に成り済まして、フェイスブックを開設したということで、成り済ました発信者を訴える為にフェイスブック側の通信ログの開示を求めた訴訟で、東京地裁がそれを認め、フェイスブック側がその開示を行った事が明らかになりました。誹謗中傷を含めて、明らかに犯罪に利用された場合は今までも開示に応じていましたが、それ以外で、個人の要求に応じた判断が成されたのは珍しいことです。そのファイスブックも含め、ツイッターやLINEといったSNSは今、そのサービスにおいて転換点にあるかもしれません。

誰かが自分に成り済まし、会員制交流サイト(SNS)のフェイスブックにページを作って写真などを投稿したとして、西日本在住の女性が米フェイスブック社側に発信者の情報開示を求め仮処分を申し立て、東京地裁(鈴木雄輔裁判官)がインターネット上の住所に当たるIPアドレスなどの開示を命じる決定をしたことが、関係者への取材で分かった。

出典:成り済まし発信元開示 東京地裁 フェイスブックに命令【2014年10月21日東京新聞夕刊】

フェイスブックに限らず、様々なネットワークサービスにおいて、通信ログを開示する事は困難です。数年前から警察等捜査機関との協力において開示するようになりましたが、一般には裁判所の判断、命令によって開示される事になります。なぜ、ネットワークサービス側は通信ログの開示には慎重なのでしょうか。それは「通信の秘密」という電気通信事業法という法律の前提もありますが、安易に開示する事によってサービスが成り立たない可能性があるからです。通信ログを解析する事によって、誰が何を書いているかだけでなく、誰がどのような記事を読んでいるか等、何を行っているのかがわかるからです。すなわちユーザのプライバシーや個人情報が外部に流出する事になりサービスが成り立たなくなるのです。

インターネットの検索サイト「グーグル」で自分の名前を検索すると、過去に犯罪行為に関わったとする記述が表示されるのは人格権の侵害だとして、男性が米グーグルに検索結果を削除するよう求めた仮処分申請について、東京地裁(関述之裁判官)は9日、検索結果の一部の削除を命じる決定をした。

出典:グーグル検索結果、東京地裁が一部削除命令【2014年10月10日付 読売新聞】

グーグルにとって検索結果を歪めることは、そのサービスにおいて死活問題です。理由はともあれ、個人や組織からの要求によって検索結果を左右させる事は検索サービスとして成り立たなくなるからです。しかし、「忘れ去られる権利」を始め、様々な問題が顕在化する事によって、事態が大きく変わろうとしています。上記のように成り済ましの問題や誹謗中傷、それに詐欺への利用、プライバシーや個人情報の漏えいといった問題に積極的に対処しなければ、通信の秘密や検索の公平性といったサービスとしての本質に関わらず、利用者が離れていく事態に陥るからなのです。

LINEも国内で登録者数が5,400万人を超え、サービスとしての転換期にあると考えられます。何らかの方法でアカウントが乗っ取られ、詐欺等の目的で頻繁に悪用されるようになり、またLINEいじめの問題もあり、その対策を講じる必要があります。対策はSNSとしての本質、つまり「つながり」を容易に、しかも堅実に構築できるということを阻害する可能性があります。しかし、それ以上に、利用者個人が被害を受けるという危機意識を募らせるかもしれないのです。

神戸大学大学院工学研究科 教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、現在、神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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