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子どものスマホ規制は是か非か ~いつか来た道、携帯電話~

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 教授

小中学生のスマホ利用を規制(禁止)することには反対ですが、利用制限、特に午後9時以降という利用制限には賛成です。これは小中学生がスマホを正しく使う事に対して背中を押してあげる事なのです。

スマートフォンなどのサービスを巡って、いじめや学習への影響が問題になっているとして、岡山県教育委員会は、小中学生を対象に午後9時以降、スマートフォンや携帯電話を親に預けて利用しないようにするガイドラインを設けることになりました。

都道府県の教育委員会によるこうした取り組みは、全国で初めてだと言うことです

出典:“夜間スマホ”岡山県教委が利用制限へ【NHK NEWSWEB】

携帯電話の小中学生利用が問題視された5、6年ほど前に当時の大阪府知事が、その利用禁止について提案し、議論となりました。いくつかの事件等が大きく取り上げられた関係で、その規制について肯定的な意見が大勢を占め、少なくとも家庭レベルでは利用させないという意見が多かったようです。当時、私も意見を求められ、少なくとも自我が芽生えつつある、小学校高学年や中学生については利用を禁止するのではなく、その利用方法について教え込むべきだと主張しました。もちろん、その教え方についても単に「べからず」集を暗記させるのではなく、小さな失敗を繰り返しながら体験的に学ぶべきと述べました。もし小中学生で禁止したとしても、結局のところ、高校大学、あるいは社会人になってから使わなければならない必須の道具であり、避けて通れないからです。

では、スマホの利用制限については反対の立場でしょうか。いいえ、利用制限については賛成です。ただし小中学生にとって無条件に午後9時以降のスマホ利用を禁止することに対してではありません。特に小学校の高学年や中学生にとっては、ほとんどの児童生徒が、その正しい使い方については十分学習しているはずです。しかし、問題となっているLINE等のSNSについては一部の児童生徒が主導し、そのグループから抜けること、特に昼夜を問わずの誘いかけに逆らう事が出来ないことが問題なのです。その鎖からわずかでも外れる事が出来れば、LINEいじめ等の温床となっている、閉ざされた擬似的な社会、つまり児童生徒にとって、「すべて」であると思われているお互いの関係から解き放たれる可能性が出てくるのです。子ども達にとっては、この鎖を一時的にでも解く、わずかな口実が必要なのです。午後9時以降の利用制限は十分な口実に成り得ます。

賛成ではあるのですが、やはり危惧する事は午後9時以降の利用制限やそのガイドラインが、全般的な利用禁止に近づくことです。基本的にLINEの利用も含めて、小中学生のスマホ利用については賛成であり、その利用方法の一つとして、午後9時以降の利用制限というガイドラインに賛同しているのです。

「午後9時以降、スマートフォン(スマホ)、携帯電話を保護者が預かる」。今年4月、愛知県刈谷市の小中学校で導入された新しい取り組みだ。真の狙いは時間規制ではなかったが、教育現場での極端なスマホ規制策として全国的な注目を集めた。一方で、外部講師を招きスマホやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の積極活用に転じる学校も出てきた。刈谷市の規制導入から半年。教育現場のスマホ規制をどう考えるべきか。

出典:SNS教育:子供のスマホ 規制派と活用派の声を聞いてみた【毎日新聞】

神戸大学大学院工学研究科 教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、現在、神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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