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それでも「食べログ」が悪いのか!?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
隠れ家

下記のように、食べログ側と店側との訴訟の判決がありました。

「秘密の隠れ家」をコンセプトにしたバーの店舗情報がグルメ情報サイト「食べログ」に掲載され、削除要請にも応じなかったのは不当だとして、バーを経営する大阪市内の会社がサイト運営会社「カカクコム」(東京)に掲載情報の削除と330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、大阪地裁であり、佐藤哲治裁判長は「違法性は認められない」として原告側の請求を棄却した。

出典:隠れ家バーの「食べログ」削除要求を棄却 大阪地裁「店舗情報、原告自身が公開」:産經新聞2015年2月23日

食べログと店側の訴訟については珍しい事ではなく、これまでもいくつか報道されています。その多くは店側が食べログに対して掲載の削除を求めたものです。今回も、店側が食べログ側に関して、店の紹介自体、すべてを削除することを求めたものでした。結果としては訴えを棄却されています。昨年の9月にも同等の判決が札幌地裁で下されています。

飲食店口コミサイト「食べログ」に虚偽の内容を書き込まれて損害を受けたとして、札幌市の飲食店経営者がサイトを運営するカカクコムに対して書き込みの削除を求めていた訴訟の判決が2014年9月4日、札幌地裁(長谷川恭弘裁判長)であった。判決では、書き込みは営業権の侵害にはあたらず、削除を認めると「他人の表現行為や(サイト利用者が)得られる情報が恣意的に制限される」などとして原告側の請求を棄却した。

出典:「食べログ」情報削除認めず 札幌地裁、飲食店の訴え退ける:JCASTニュース2014年9月5日

しかし、この2つに関しては原告の求めは掲載自体の削除であっても、その理由が異なります。前者は食べログ側が無断で掲載した内容自体の削除を求めたことに対して、後者は、掲載は当初黙認、あるいは認めたものの、結果として悪評につながるコメントを利用者が書き込んだ事によって、その部分を中心に削除を求めたことです。後者に関しての判決は、理解できる部分はあるとしても、前者の要求を退けた事には異論があります。

「食べログ」のビジネスモデルとしては、飲食店を網羅した上で、利用する「客」が評価することですが、網羅という前提が壊れる故に、飲食店側の拒否権を認めたくないのでしょう。「表現の自由」を盾に取るのであれば、店固有の情報について、その利用目的に制限を与える自由および権利を有して然るべきではないでしょうか。店側にとって都合の良い情報のみの掲載を強要するのではなく、単に店の情報を公開したくないということは十分、店側の裁量の範囲内で有ると考えられます。

判決理由の一つに「店のウェッブを公開している」とのことですが、ウェッブを単に公開することと、「食べログ」というある意味、強力な検索システムに掲載することは雲泥の差があります。ウェッブを上げるだけでは、URLを知らない限り、あるいはよほど特異な検索キーワードを入れない限り見つけることはできません。

なお、2015年2月24日付け産經新聞朝刊にての記事『食べログ情報 削除認めず』でのコメントはこちらです。

2014年10月6日付け北海道新聞にての『「食べログ訴訟」店側の訴え棄却』での解説はこちらです。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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