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悪いこと言わないから、ネット銀行は使いなさんな!?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
日本銀行

4月から始まった新生活用の銀行口座に、ネット銀行を検討している人は少なくないはずだ。新生活なんて始まらないよ!という人も、便利でお得なネット銀行の口座開設を考えてみよう! と、ここまでは、よくあるネット銀行比較記事のくだり。この後に続くのは「普通預金や定期預金金利がメガバンクより高い!」とか「いろんなコンビニATMに対応していますよ!」といった、パンフレットみたいな記事である。

出典:失敗しないネット銀行の選び方「預金金利はどうでもいい!」 @DIME

ほとんどすべての銀行がネット銀行化しており、銀行の新しいサービスの一つとして、ネット銀行、すなわちネットを使った振り込み、送金等のサービスを行っています。銀行は、人手のかかる窓口業務のコストカットを目的に、それを推奨し、金利面の優遇をうたっていました。個人客としては比較的高額な取引となる住宅ローン金利などは、よりコストカット可能なネット専業銀行が大胆な優遇制度を整えています。しかし一般の顧客に対しては、金融緩和政策をとる現在、金利の優遇にも限界があり、ネット銀行本来のサービス優遇、便利さに移っています。

何と言ってもネット銀行最大のメリットは文字どおりネットを使っての在宅決済(モバイル決済)です。決済手数料を含めて如何にスムーズに決済が可能かを考えるべきでしょう。使い易さ、画面の見やすさ、そしてパソコンのみならず、スマートフォンを利用した決済をいつでもどこでも行えることです。

そして一番大事なことはセキュリティです。在宅決済の最大の不安はその安全性に有ります。昨今、様々な手口による不正送金問題が発生し、その被害額は毎年倍々で増えています。顧客の取引において、どれだけセキュリティ対策が考えられているかは重要な選択のポイントです。さらに一般の人には判断は難しいですが、銀行自体のセキュリティ対策、危機管理体制も重要です。残念ながら現時点で完璧に近い対策が十分にとられている銀行はほとんどありません。特に顧客のセキュリティ意識の大小によらず、安全性が保証されているネット銀行は皆無といって良いでしょう。現在のところ、リスクを考えると在宅決済をする必要性のない人はネット銀行を避けるべきかもしれません。

推奨される有効な対策としては、不測の事態が起こる事を前提にした、危機管理でしょう。つまり、ネット銀行としては決済をするための口座としてのみ運用し、最低限の金額しか扱わず、貯蓄用の口座に資産を預け、その口座はネット銀行とせず、ネットからのアクセスを行えないようにすべきです。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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