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逮捕されるかも!? 悪質なデマにご注意!

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
デマ(写真:アフロ)

朝日新聞デジタルなどは3月1日、2ちゃんねるに「【速報】北九州市立小学校の6年担任、教え子の11歳女児を妊娠させ懲戒免職」というスレッドを立て、虚偽の内容を投稿した男性会社員(27歳)が福岡県警小倉北署に書類送検されたことを報じた。

出典:「小6妊娠」2chにウソで書類送検【R25】

昨年の11月頃、「北九州市立小学校の6年担任、教え子の11歳女児を妊娠させ懲戒免職」というニュースがネットで流れました。ネット上の掲示板で、あたかも大手の新聞社が掲載したような内容、記事の取り上げ方で紹介したのです。これはまったくのデタラメでした。しかし、この記事を見た人たちの多くはデマとは気付かず、犯人とされる小学校教諭への批判に留まらず、北九州市教育委員会への批判のコメント(掲示板の記事に書き添える意見投稿)、さらに別の掲示板への転載やまとめサイトまで作られるようになりました。時間が経った後日に、デマであるという報告がなされ、もともと書かれた掲示板も含めて訂正記事が投稿され、沈静化されました。しかし、個人的な被害はなかったとしても、北九州教育委員会には、問い合わせだけでなく、言われもない批判や中傷の電話やメールが多数有り、少なからず本来の業務に支障があったとのことです。

後日談として、このデマ記事を掲示板に掲載した会社員が書類送検されました。この会社員は「掲示板で自分が書いた記事が話題になるのが面白かった」と供述しているそうです。また真偽は不明ですが、「他の掲示板での記事を転載しただけ」と言い逃れているそうですが、これは

「他の人もやっているから」という子供じみた理屈に他なりません。たとえ転載したとはいえ、その記事を掲載した責任については逃れることはできないのです。

このデマに関しては、多くの人が振り回され、少なからず業務に支障が出た事で、非常に悪質であると考えられます。イタズラとしても度が過ぎており、十分に信用毀損や業務妨害で訴えられる可能性があり、事実、掲載した会社員が上記のように書類送検されました。

現在では以前にも増して、ツイッター等のSNSで急速に、そして広範囲に広まる傾向があり、その影響が予測できない事態も引き起こすことがあります。デマがデマを呼んで、さらに大きなデマになり、無関係の個人や組織を大きく傷つけることになり得るのです。「イタズラ」で書いた犯人は、ネット上で大きな話題になっている事に、その仕掛人が自分であり、騙されている人たちの加熱度を横目に自己満足感に震え喜んでいるのでしょう。しかしその満足感の何千倍、何万倍も後悔の念に沈むことになるのです。

上記のような誹謗中傷にあたるデマ記事も問題ですが、社会的混乱や不安に陥れるデマもさらに大きな問題です。災害時の偽情報に関するデマを代表格に、平時にも様々なデマがネットを通じて拡散されます。中にも冷静に考えれば信じられないようなデマも存在します。昨年には、「110に電話をかければ、通信制限が解除されて、ネットが高速に使える」というデマが流れ、実際に110に電話した人が急増し、警察の緊急電話が混乱しました。さすがに、直接的に「110に電話をかける」というデマには反応しませんが、「『1』を2回押した後『0』を押して通話ボタンを押し、15秒くらい待つと『ピー』と音が鳴り携帯電話の通信速度制限が解除されます」と書かれると騙されてしまう人がいるのです。最近では、「iPhoneの時間設定を1970年1月1日に設定すると、iPhoneが軽くなる」というデマもありました。これはiPhoneの実際のバグを悪用した悪意に満ちたデマです。

このように騙される人たちを含めて、ネット上の話題にすぐに反応して書き込み等を行ってしまう人たちの行為を「釣られる」と称しています。ネットの出現以前は、ある話題について釣られたとしても、すぐに反応する事は出来ませんでした。正確には反応して憤慨したとしても叫ぶ程度であり、その意思表示を広く、しかも即座に伝える事ができなかったのです。現在では、掲示板にコメントを書いたり、SNSで伝える事が出来るようになりました。自分の不注意によって、釣られたことが、他の大勢の人に迷惑をかけるようになったのです。つまりデマの流布に自分が積極的に加担するようになってしまいます。最悪の場合、デマに加担した事で訴えられる事になるかもしれません。

デマに騙されないようにするためには、まず「釣られない」ことです。つまり、事の真偽はともかく、過剰に反応しない事です。そしてリツイートやフォローといったように、自分がその記事を再配布する際は、その記事が正しいか否か、他の人はどのように捉えているかを調べる必要があります。検索システムを使えば、その真偽や記事の評判について、すぐに調べる事が出来ます。必ず調べるようにしましょう。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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