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大流行しています、新型?ウイルス

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
ウイルス感染(写真:アフロ)

電子メールに添付されたファイルを開くとパソコンに保存されている画像などすべてのデータが使えなくなり、元に戻す見返りとして金銭を要求する「身代金要求型」のコンピューターウイルスが、今月、国内だけで20万件以上確認され、専門家は悪質なサイバー犯罪として注意を呼びかけています。

出典:身代金要求型ウイルス急増 今月国内で20万件以上に【NHK NEWS WEB】

この2、3日、大量のコンピュータウイルス(マルウェア)が配布されています。記事にあるような20万件で済まないでしょうから、大流行と言って良いでしょう。ただし、(インフルエンザウイルスにような)本物?のウイルスのように空気感染(正確には空気を媒体にした飛沫感染)するわけでなく、メールアドレスが必要です。このメールアドレスも知らない間に漏れているのです。自分はしっかり管理して、信用のおけないところにメールアドレスを教えていないとしても、メールを送ったことがある会社や組織、あるいは個人から漏れている可能性が高いのです。

その漏れている大量のメールアドレスに向けて、マルウェアが仕組まれたメールが送られているのです。昔から知られているように添付ファイルで送られているのですが、その文面が巧妙です。「先日、通販で購入されました品の請求書です」とか「先週は楽しかったです。その写真を送ります」、あるいは「申し訳ありません。昨日、添付し忘れたファイルを送ります」のような文面になっており、油断しているとつい開いてしまいます。「ウイルス対策ソフトがあるから大丈夫!」と思う人もいるでしょう。しかし、多くのメールがこのウイルス対策ソフトをすり抜けてしまうのです。

このマルウェアは「ランサムウェア」と呼ばれる「身代金要求型ウイルス」であったり、「不正送金ウイルス」であったりします。前者は発症すると、自分の写真や文書、場合によっては過去のメールを含めたファイルを暗号化してしまい、読めなくなってしまいます。これを元に戻すためにと、お金を要求するのです。後者はネットバンクを利用していると、第三者の口座へ勝手に預金が振り込まれてしまい、お金を盗まれてしまうのです。双方ともに、開いたからといって、必ず被害に合うわけではありません。また、すぐに被害に合うわでもなく、数日後に、あるいは数週間、数カ月後の忘れた頃に発症して、被害に合う可能性もあります。

届いた場合の対策ですが、何をしないのが賢明です。あまり詳しくないのであればメール自体を消すぐらいならばともかく、ファイルには決して触れないようにしてください。

マルウェアに感染しない対策として、従来からの「ウイルス対策ソフトを導入する」以外に、「安易に添付ファイルを開かない」、そしてメールに書かれたURLをクリックして「安易に怪しいウェッブを閲覧しない」と言われています。「開いて良いか否か」、「怪しいか否か」という判定は難しいかもしれません。しかし、マルウェアは必ず感染、正確には発症するわけではありません。利用しているOSやソフトウェアの脆弱性を利用することが大半ですから、脆弱性をなくすためにも細心のソフトウェア(のバージョン)やOSの更新を必ず行うことが必要です。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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