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高浜原子力発電所停止に伴う損失は誰が負担すべきか

森本紀行HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

大津地方裁判所が運転禁止を求める仮処分申立てを認める決定をしたことにより、正式な法定手続きを経て稼働中の高浜原子力発電所が運転停止に追い込まれるという異常な事態となっています。この停止によって生じる経済的損失は極めて大きなものになると予想されますが、その公正公平な負担は、どうあるべきなのか。

原子力発電所を停止させる費用

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関西電力は、高浜原子力発電所3号機が本格稼働を再開した2月26日に、4号機の本格再稼働(同じ日26日に、原子炉起動して、再稼働最終準備段階にはいりました)を前提として、5月1日より電気料金を引き下げる手続きを開始する旨、公表していました。

ところが、関西電力は、仮処分決定を受けて、3月10日に、3号機を停止せざるを得なくなったことから、値下げの予定を撤回しています。つまり、停止による社会的費用は、既に顕在化しているのです。

現実的に予想される損失は、仮処分が取消されるまでの停止期間中に生じる損失です。この損失は、停止期間が全く見通せないことを除くと、一日当たりの損失については、代替電源を用いることによる燃料費等を見積もるなどの方法により、合理的に推計可能です。

後は、再稼働の日が決まれば、損失の総計は、すぐに計算できるはずですが、おそらくは、一日当たり億円単位の話でしょうから、1年間も停止すれば、巨額なものになることは、間違いありません。

誰が損失を負担すべきか

もちろん、一次的には、関西電力の損失ですが、最終的には、電気事業の性格上、電気料金は費用に連動するので、損失の多くは、利用者に帰属し、残りが株主に帰属することになります。

関西電力は、5月1日から電気料金を引き下げる予定であったので、各利用者は、自己の標準的電気使用量に、想定されていた値下げ幅を掛け合わせて、一日当たりの損失額を計算でき、関西電力が負う損失から、全利用者の損失額を控除すれば、関西電力の株主の損失も計算できます。

一次的に損失を負う関西電力にしても、最終的に損失を負う利用者や株主にしても、この損失を負うことについて、合理性、あるいは社会的な公正公平性があるとして納得できるためには、運転禁止仮処分に正当性がなければなりません。

逆に、不当な仮処分ということになれば、不当な仮処分に起因する損失は、不当な損失ということになり、利用者および株主に対して高度な社会的責任を負う関西電力は、不当な損失の補償を求める義務を負うと考えざるを得ません。

また、仮に、何らかの事由により、関西電力として、そのような行為をなし得ないということならば、損失は最終的に利用者と株主に帰属せざるを得ないので、利用者と株主には、その損失の補償を求める権利が発生すると思われます。

仮処分は正当なのか

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運転禁止の仮処分決定は、具体的に人格権が侵害されるおそれのあること、即ち、被保全権利の存在することを前提とし、更に、その保全の必要性が認められたうえで、なされなければなりません。

被保全権利については、後の正式な差止訴訟において否定されたとき、より簡易な手続きである仮処分申立てによって被保全権利を認定したことにつき、仮処分の不当性をいえるかどうかは、簡単な問題ではないでしょう。結果の正当性により、経路の不当性をいえるとは限らないからです。

しかし、保全の必要性については、別問題です。後の差止訴訟において被保全権利が否定された場合は、関西電力の経済的損失を顧慮することなく、保全の必要性を認めて、停止せしめたことは不当であったといえます。

また、保全の必要性が否定されるならば、被保全権利の認否にかかわりなく、差止判決の時点で、停止させればよいことで、仮処分によって停止せしめたことは不当であったという主張をなし得るようにも思いますし、本決定の異議審や抗告審で、保全の必要性が否定されても、同様に、不当な停止命令である旨を主張できるように思います。

保全の必要性はあったか

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大津地方裁判所は、保全の必要性について、1月29日に3号機が原子炉起動し、2月26日に4号機が原子炉起動したという事実をあげるのみです。

しかし、運転してもしなくても、施設の存在自体がもたらす危険は変化しない以上、施設の稼働という事実によって、正式の差止判決までの期間において、人格権の侵害が現実化することの論証、つまり、是非ともに仮処分により阻止しなければならないほどの緊急性を有する事態の急変を生じたことにつき、論証が必要なはずです。

もしも、裁判所として、論証に踏み込めば、停止に伴う経済的損失との間で、利益衡量を図ることは、絶対に不可欠であったと思われます。なぜなら、これは、急迫の事態を前提とした仮処分の決定なのであって、被保全権利自体からは保全の必要性を導けない以上、別途、経済的損失に見合う急迫性について、合理的な説明が必須だからです。

そして、通常は、この論証が困難であるからこそ、仮処分を申立てるものに相当の担保を積ませることを条件にして、仮処分が発令されますが、本決定は、「主張内容及び事案の性質に鑑み」というだけで、申立て住民に担保を積ませずに発令したのです。

本決定は、急迫した事態について何らの説明もなく、稼働中の原子力発電所を停止せしめ、もって、大きな経済的損失を関西電力に強いているわけですから、それだけでも、不当な決定であると思われます。

不当な仮処分による損失を誰が負担すべきか

では、不当な仮処分であったとして、それに起因する損失は、社会的な公正公平の見地から、誰が負担すべきでか。理屈上、申立て住民、もしくは裁判官ということにならざるを得ません。

本決定は、原点において、原子力規制委員会の新規制基準策定思想について、「非常に不安を覚える」とする裁判官個人の心情があるとみられます。このような司法のあり方については、国民として、それこそ、「非常に不安を覚える」ものです。

これは、司法の逸脱ではないのか。だとすれば、その責任を問いたいところですが、制度的に不可能です。それでも、原子力発電をめぐる民事の訴訟や仮処分申立てを、より専門科学的な次元で審理・判断される行政訴訟へ一本化するなど、司法制度の改革は、この機に求めていかなければならないでしょう。

裁判官が負担しないなら、申立て住民が負担すべきということになります。実際、関西電力社長は、決定が覆ることを条件に、損害賠償請求訴訟も検討し得るというような発言をし、案の定、「恫喝」である等の抗議を受けたようです。

住民に対する損害賠償請求は「恫喝」か

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金額の巨大さと、相手の負担力からして、訴訟としての経済的意味はないので、抗議にあるように、同様の申立てや訴訟を抑止する機能が期待されることになるのでしょう。ただし、それは、必ずしも、不当なことではありません。

本決定は、被保全権利の認定にかかわる判断そのものにおいて、正当性を欠くとみられる点があるのですが、現実的な最大の問題は、仮処分を求める簡易な手続きにおいて、経済的利益衡量なしに、安易に稼働中の原子力発電所を停止せしめたことです。もしも、正当な経済的利益衡量がなされていれば、そのことが合理的な抑止力となって、仮処分はなされ得なかったと思われるのです。

また、担保の制度自体が、仮処分を申立てたものの経済的負担を想定したものです。仮処分決定を受けたものは、自己の権利の行使を制限されるわけで、必ず、何らかの経済的損失を負います。その負担は、仮処分に合理性がなくて否定されれば、補償されなくてはならないことから、申立てたものに担保を供させることができるようになっているのです。

今回の決定では、申立て住民の「主張内容及び事案の性質に鑑み、担保を付さないこととする」とされています。担保を付せば、その額があまりにも大きくなることが予想され、決定の実効性がなくなるからだと思われますが、だからといって、決定が覆されたときにも、申立て住民の責任はないといっているわけではないでしょう。

仮処分の効果の広さ

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そもそも、特定の個人の人格権に基づく申立てについて、その効果が広範囲な社会におよぶということに根本的な問題があるのです。

本件をはじめ、民事の差止訴訟や申立ては、人格権が侵されるおそれを基礎としているので、究極的には、たった一人の人格権の絶対性を打ち出すことで、専門科学的知見を集積した原子力関連法規を無視する決定や判決が導かれる事態となっているのです。

しかし、人格権は個人に帰属するものですから、本決定で守られるべき人格権は、申立て住民だけのものです。これは、司法制度上間違いないことです。なぜなら、抽象的に、原子力発電所の周辺250キロ圏内の住民の人格権などというものは、訴えの対象になり得ないからです。

ならば、本決定の効果は、本来、申立てをした少数の住民にだけ、及ぶようにしなければならないはずです。しかるに、発電所停止の効果は、発電所の運転による経済的効果の享受を期待していた多くの住民に及びます。

従って、発電所停止の仮処分を申立てるのならば、その効果が自分個人の人格権を守ることをはるかに超えて非常な広範囲に及ぶことを自覚すべきです。その重責を負う覚悟もないものに、訴訟や申立てを認めていいものか、それが、法制度論も含めた根源的な問いでしょう。

もちろん、民事の固有の機能として、情報や経済力等で優越する関西電力等の原子力事業者に対して、弱い立場の個人を守るという役割のあることまで、否定するものではありませんが、今回のように、安易にすぎる運転禁止仮処分が乱発され得ないように、一定の責任の重さによる抑止力は必要だと思われます。

もしも、原子力発電所周辺の地域社会を代表するといえるだけの個人の集合によって、仮処分申立てがなされていて、今回の大津地方裁判所と同様の論理で、それを認めたとしたら、集団としての経済的負担力に鑑みて、担保を付すべきであったでしょうし、決定が覆った場合には、当然に、損害賠償にも応ずるべきです。

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、1990 年1 月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。 2002 年11 月、HC アセットマネジメントを設立、全世界の投資機会を発掘し、専門家に運用委託するという、新しいタイプの資産運用事業を始める。東京大学文学部哲学科卒。

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