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甲子園のタイブレーク制導入を考える

森本栄浩毎日放送アナウンサー
甲子園の高校野球にタイブレーク制が導入されるかもしれない。延長ドラマは消え去るか

高校野球は転換期に来ているといわれる。近年だけでも、特待生を認めたり、甲子園大会での休養日の導入、さらに元プロによる指導の大幅緩和など大きな改革がなされた。いずれも現場の事情や選手の健康管理、技術向上などを考えれば合理的であるといえる。特に温暖化の影響で、猛暑期の連戦が選手の健康面に深刻な影響を与えるということは広く知られている。今回のタイブレーク制導入は、「選手の健康管理が第一の理由」と高野連は明言している。

タイブレークはどんな制度か?

タイブレークは、延長に入って得点しやすいよう1死満塁や無死1,2塁から攻撃を行うもの。最初の攻撃が任意の打順(1番から始めても4番から始めてもよい)で行えるため、点の入る可能性が高い。継続された場合は、前イニングの最終次打者から始めなければならない。延長に入ると後攻チームが有利とされるが、先攻チームは1点でも多く取れるよう攻めるだけなので、ある程度のリードを奪えれば守りやすい。したがって、先攻が有利という見方が一般的である。特に投手戦だった場合は、突如、緊迫感が薄れるため、どちらが勝っても後味は非常に悪い。「違う試合をしている感じだった」という感想を聞いたこともあるくらいだ。高校野球においては、すでに神宮大会や国体、今春からの地区大会でも採用されている。世界の流れがすでにタイブレーク決着になっているため、高野連も真剣に検討することになった。試合決着を優先するこの制度は、サッカーのPK戦に似ている。神宮大会や春の地区大会のように、日程消化を優先させるべきときはやむなしとしても、「さすがに甲子園までは」というのが高野連や主催新聞社の本音だろうと思う。高野連が過敏になっているのは、試合決着を急ぐことではなく、何よりも「選手の健康管理」である。

動き始めた高野連

高野連は先般、全国の加盟全校(4000余校)にアンケートを送付した。

・投手の投球数の制限

・投手の投球回数の制限

・タイブレーク導入の是非、また導入する場合はどの回から始めるか

中身を把握しているわけではないが、「健康管理上、導入すべきもの」という文言が記されていることは間違いない。8月中にその結果が集約され、本格論議がなされるわけだが、タイブレークも含め、早ければ来年夏から導入される可能性がある。選手の健康管理はそこまで差し迫った問題なのだ。

選手の健康管理は大問題

今春、センバツで初めて「休養日」が設定された。結果的に雨天順延があり、休養日なしで大会は終わった。選手の健康管理を第一にした休養日は、昨夏甲子園から導入されている。今センバツは、2回戦で延長引き分け再試合があったため、この勝者が決勝に残ると5連戦の可能性があった。導入初年度から、ルールとはいえ休養日取り消しは、掛け声倒れに終わった印象が強い。もともとセンバツは投手優位で、15回打ち切りの現行ルールでは、5年に1度くらいの頻度で引き分け再試合の可能性はあると思っていた。むしろ、1日3試合の方が問題で、これを4試合に戻せば、引き分けがあっても日程の超過は取り戻せる。2日以上延びても、準決勝の前に休養日を入れられる。とりわけ天候に左右されるセンバツは、日程の見直しのほうが先決だろう。私見をあえて述べるなら、引き分け(再試合)を作らないことを考えた方がいい。例えば、延長の15回を無制限にするとか、15回で決着がつかない場合は、再試合ではなく、翌日に16回から始める(サスペンデッド)のはどうだろうか。それなら、9回まで戦わなくて済む。あと、決勝だけは延長無制限がいい。翌日に試合がないとわかっているわけだから。これは炎暑下の決勝で延長18回引き分け再試合、2日間投げ続けた三沢(青森)OBの太田幸司氏(62)が、「翌日やる方がはるかにしんどい。身体が動かなかった」と証言していることからも明らかだ。もちろん、夏の予選決勝も同様(引き分けなし)である。

甲子園は延長にこそドラマが

健康管理の対極となるのが高校生の限界を超えた頑張り。これこそが甲子園のよさであり、数々の感動のドラマを生んできた。高校野球がここまで日本人に愛されてきた理由はここにある。人々の胸を打つ感動のドラマは永遠に語り継がれる。またその多くが延長によるものであった。

今春、龍谷大平安(京都)も桐生第一(群馬)と死闘を演じた。延長はもう見られないのか?
今春、龍谷大平安(京都)も桐生第一(群馬)と死闘を演じた。延長はもう見られないのか?

史上最高試合といわれる昭和54年(1979年)の箕島(和歌山)-星稜(石川)戦は延長18回に決着がついた。延長に入ってからが本当の勝負で、1-1だった9回までを覚えている人は殆どいない。これにタイブレークをあてはめると想像すればわかりやすい。これが甲子園大会でのタイブレーク導入に対する私の結論だ。皆さんもご自身の中での名勝負を思い起こしたとき、大半が延長試合であることに気付かれるはずだ。甲子園大会にタイブレークを導入すれば、高校野球の魅力は、半減どころか皆無になってしまうとさえ思える。国際大会に高校生が参加するようになり、世界の時流に後れまいとする姿勢は理解できる。しかしベースボールと「野球」は違う。というより違った発展の仕方で現在に至る、と言ったほうが正しい。

日米野球文化の違いは慎重に

アメリカ発祥のスポーツは合理的なので、アメフトも野球も私は好きだ。スポーツの本質そのものが戦略性に富んでいて、日本人の国民性にも合っていると思う。タイブレークも発想は実に合理的だ。しかし、アメリカの人たちが、甲子園で繰り広げられるドラマ性を理解するだろうか。「同じ投手に何試合も投げさせて、つぶす気か」とは思っても、ストイックに投げる姿に心打たれることはないはずだ。それは国民性の違いであり、理解しろという方に無理がある。世界の時流に乗ることは大切だが、日本独自に築いてきた文化は継承し、譲れないところは徹底して守り抜く姿勢があってもいいと思う。確かに健康管理は重要だ。皆の知恵を結集する必要がある。特に投手起用に関しては、指導者の勇気と自覚に委ねるしかない。しかし、勝利至上主義が高校野球人気を支えてきただろうか。むしろ、日本人は敗者の美学にこそ感動する。譲れない部分を見誤ると、100年に及ぶ先人たちの努力が水泡に帰す結果を招くことになりかねない。拙速な判断に流されず、慎重に議論されることを望んでいる。これは1ファンとしての切なる願いでもある。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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