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好カード続出! 夏の甲子園

森本栄浩毎日放送アナウンサー
6日に開幕する夏の甲子園。好カードが次々に決まり、館内は大いに沸いた

激しい予選が終わって息つく間もなく、夏の甲子園が開幕する。高校野球が始まって100年にふさわしく、古豪、名門が顔をそろえ、新たな歴史の1ページが開かれる。1回戦から好カードが次々に決まり、そのたびに抽選会場はどよめきに包まれた。

伝統の北海が開幕飾る~1日目

開幕戦は鹿児島実と北海(南北海道)の伝統校対戦。

最初に札を引いた北海の鎌仲主将は、初日を引き当て苦笑い
最初に札を引いた北海の鎌仲主将は、初日を引き当て苦笑い

まさに長い歴史を誇る甲子園のオープニングとしてはこの上ない。北海の平川敦(おさむ)監督(44)は、「ウチは北海道のチームとして甲子園で最初に試合をしましたし、光栄」と喜んだ。ともに予選では最右翼と見られたライバルを1点差で破っていて、競り合いになるだろう。第2試合は岐阜城北と中京大中京(愛知)の隣県対決。投打に中京が一枚上で、岐阜城北としては序盤にしっかり守って食らいつきたい。第3試合の宮崎日大と上田西(長野)はともに甲子園初勝利を狙う。防御率0点台の杉尾剛史(3年)が安定する宮崎日大に対し、上田西は、予選準決勝でセンバツ出場の松商学園、同決勝で昨夏代表の佐久長聖を僅差で破るなど粘りがある。上田西は得意の機動力でかき回せるか。

九州国際-鳴門 東海大甲府-静岡~2日目

2日目は好カードが続く。花巻東(岩手)と初出場の専大松戸(千葉)は両校の投手に注目。花巻東の左腕・高橋樹也(3年)は投球回数を上回る奪三振を記録した。専大松戸は、大型右腕の原嵩(3年)と左腕・角谷幸輝(3年)の強力2枚で勢いに乗る可能性を秘めるが、試合巧者の花巻東はかなりの難敵だ。どちらが少ない好機をモノにできるか。ともに夏は初めての霞ヶ浦(茨城)と広島新庄は、守りに安定感がある新庄を霞ヶ浦がどう崩すか。新庄の堀瑞輝(2年)は技巧派だが、三振も取れる。予選で6投手が投げた霞ヶ浦の継投機もポイントだ。

静岡の村木は2年生ながらセンバツでも敦賀気比に肉薄。今大会はさらに成長した姿を見せる
静岡の村木は2年生ながらセンバツでも敦賀気比に肉薄。今大会はさらに成長した姿を見せる

第3試合は昨夏ともに初戦敗退の九州国際大付(福岡)と鳴門(徳島)が苦い経験を生かせるか。就任1年目で晴れ舞台となる九国の楠城徹監督(64)は元プロ。「大勝するような力はないですが、粘りが出てきました」と手応えを感じている。鳴門の森脇稔監督(54)は、「立ち上がりの守りが大事」と序盤に大差をつけられた昨夏を振り返り、「河野(竜生=2年)は、球速もキレも出てきて成長しています」と1年生でほろ苦デビューを果たした左腕エースに期待を寄せる。九国の中軸右打者が河野の厳しいインコース攻めをどう攻略するか。第4試合もハイレベルでまとまる東海大甲府(山梨)と静岡の隣県対決。エースが2年生右腕で打線も強力と共通点は多い。甲府の菊地大輝は、140キロを超える速球とコーナーワークが巧み。静岡の村木文哉は、フォークボールを武器に安定感が増した。打線の長打力と経験で静岡が上回るが。潜在能力は互角だ。

早実は今治西と、気比には明徳が立ちはだかる~3日目

3日目はさらに好カードが。まずは「怪物」清宮幸太郎(1年)擁する早稲田実(西東京)がセンバツ出場の常連・今治西(愛媛)と。清宮に話題が集中するが、「主将の加藤(雅樹=3年)を中心に、3年生がやりやすい環境を作ってくれていますから、(清宮も)力を発揮できています」と和泉実監督(53)は上級生への信頼を口にした。投手に軸が見当たらない今治西相手なら清宮の甲子園デビューもチャンスは十分だが、早実も投手に不安があり、打ち合いは必至か。続く敦賀気比(福井)と明徳義塾(高知)は、初戦最高のカード。春夏連覇を狙う気比が投打に勝り優位は動かない。ただ、明徳は過去夏16回の出場すべてで初戦を突破していて、これは驚異的。馬淵史郎監督(58)は、「ウチは予選で1回死んでいる(9回2死からの逆転)から、思い切ってやりやすい。相手は底力があるけど、初戦は力の差が出にくいからね」と相手が上と認めつつも不敵な自信をのぞかせた。一方、気比の東哲平監督(35)は、「春は終わったこととして、夏に勝ち抜けるようにやってきました。まずは目の前の相手に集中するだけです」と平静を装った。馬淵監督の言は的を射ていて、どんな強豪でも初戦は本来の力が出ない。明徳が終盤まで競り合える展開に持ち込めれば面白い。第3試合は初出場の大阪偕星学園が比叡山(滋賀)との近畿対決。投打ともスケールは偕星が上だが、激戦の疲れが心配。山本せき(析の下に日)監督(47)は、「本音を言えばもう2~3日あとの方がよかった」と言うように疲労が抜け切っていないようだ。「普段はたくさん練習しているので、休むわけにもいかないし、疲れを取るような練習をやるしかないですね」と頭を抱えていた。比叡山の河畑成英監督(31)は、「大味な試合は偕星さんのペースだと思うので、ロースコアに持ち込みたい」と昭和57年以来の夏勝利を見据えた。偕星の打棒がカギを握る試合で、大降りになると比叡山の山崎僚太(3年)の術中だ。第4試合は名門・下関商(山口)と白樺学園(北北海道)。白樺は右腕2枚がそれぞれ完投能力を持ち、打線も力強い。対する下関商はタイプの違う3投手を駆使して勝ち抜いた。投手の出来が勝敗を分ける。

近畿勢登場。強豪・仙台育英も~4日目

4日目は初出場の津商(三重)が智弁和歌山に挑む。9回の大逆転で夢舞台をつかんだ津商は勢いがある。智弁としては、エースの齋藤祐太(3年)の左腕で勢いを止めたい。経験は智弁が上回る。近畿勢が続いて登場し、天理(奈良)は創成館(長崎)と。一昨年、去年とセンバツでは打線の不振で敗れている創成館としては、強化してきた打力を大舞台で発揮して天理を慌てさせられるか。さらに第3試合は滝川二(兵庫)が、久しぶりの中越(新潟)と。

フォークを自在に操る仙台育英の佐藤世那は、万全なら強打線も沈黙させる
フォークを自在に操る仙台育英の佐藤世那は、万全なら強打線も沈黙させる

打線充実で県大会も危なげなく勝ちあがった中越としては、打ち勝てる展開に持ち込みたい。滝川二の2年生エース・友井寛人(2年)の鋭い変化球には注意が必要だ。明豊(大分)と仙台育英(宮城)は、仙台育英のエース・佐藤世那(3年)の出来が勝敗を左右する。佐藤の潜在能力は全国でも屈指だが、調子の波が大きい。予選でも序盤に崩れることがあった。打線も含め、総合力は仙台育英に分があるが、明豊の左腕・前田剛(3年)は大崩れしないタイプなので、前田のペースで終盤までもつれるときわどい勝負になる。順調にいけば、3,4日目は土日に当たっていて、ファンにとっては応えられない好カード続出となった。

伝統の鳥羽は初出場の岡山学芸館~5日目

5日目は3試合で、健大高崎(群馬)が寒川(香川)と。看板の機動力が例年より劣る健大は、打線の迫力が例年より格段に高い。予選でやや失策と失点が多かった寒川は、しっかり守って打力で渡り合いたい。初出場の岡山学芸館は、第1回優勝の鳥羽(京都)と。センバツで岡山城東を率い4強に導いた学芸館の山崎慶一監督(58)は、「初出場なんで気楽なもんです」と控えめだが、妥協を許さない厳しい練習で、選手たちはたくましい。それは予選の準決勝、決勝での終盤の粘りとして発揮された。鳥羽はエースの松尾大輝(3年)の丁寧な投球が光る。秋以降、強化された打線が力を出せれば節目の大会での活躍も期待できる。第3試合から2回戦に入り、日程的にはここが最も恵まれた抽選運。龍谷(佐賀)と秋田商が対戦する。秋田商の左腕・成田翔(3年)が、予選39回で55奪三振の本領を出せれば上位も期待できる。春の九州大会で優勝した龍谷は、力のある3投手を擁していて、守り合いなら引けをとらない。

関東一の強打、興南は好左腕~6日目

2回戦4試合の6日目は鳥取城北と鶴岡東(山形)から。両校とも投手継投がチームの特徴。継投機は相手にとっても好機になるので、チャンスをどれだけ得点につなげられるか。関東一(東東京)は、爆発的な攻撃力を持つ優勝候補の一角。ただ、投手の軸がいないことと予選で苦戦を経験していないことで、競り合って脆さが出ないか心配。対戦相手の高岡商(富山)は、投打のバランスがよく、予選では有力校を終盤の粘りで破ってきた。ここ2年、富山代表は甲子園で活躍していて、17回目出場の名門相手だけに関東一は油断ならない。石見智翠館(島根)は、春夏連覇以来5年ぶりの興南(沖縄)と。興南の2年生左腕・比屋根雅也は、独特の投法で打者を幻惑する。予選終盤では打線好調だった智翠館も手こずるだろう。また、智翠館の1年生右腕・安藤颯が制球を乱すようだと序盤に離される可能性もある。第4試合は三沢商(青森)が花咲徳栄(埼玉)と対戦し、甲子園初勝利を狙う。投手陣に厚みがある徳栄がやや上だが、甲子園常連の八戸学院光星を破った三沢商の粘りは侮れない。

満を持して東海大相模登場~7日目

優勝候補一番手の呼び声高い東海大相模(神奈川)は、9年連続の戦後最多連続出場となった聖光学院(福島)と当たる注目カード。昨年も力のある東北勢(盛岡大付=岩手)に初戦敗退している東海大相模としてはまたも初戦が難敵。多彩な投手を擁し、起用も注目される聖光の斎藤智也監督(52)は、「まさか初戦で、という感じ。でもこれを乗り切れれば怖いものなし」と当惑した表情。一方の東海大相模・門馬敬治監督(45)は、「出番が遅いので、どう過ごすか。去年も遅く(6日目)、難しかった」と調子を上げている左腕・小笠原慎之介(3年)、右腕・吉田凌(3年)のドラフト上位候補の調整が気がかりなようだった。初戦を抜ければ日程にも恵まれるため、東海大相模としてはまさに大一番だ。好投手・小孫竜二(3年)を擁する遊学館(石川)は、春夏連続の九州学院(熊本)と。九学の1年生4番・村上宗隆との対戦は注目される。九学の坂井宏安監督(58)は、「早実と5月3日に練習試合して、村上が高校1号を打ったんですよ。そのあと、清宮くんに打たれちゃった」と、怪物と同学年の4番にも期待を寄せる。最後の49番くじは常連の作新学院(栃木)が。初日の3勝者のいずれかとの対戦になる。小針崇宏監督(32)は、「相手は勢いがあると思いますが、研究する時間もあるし、経験者もいますから」と意に介さない様子だった。

宣誓は第1回優勝の鳥羽主将に

全体で見ると、2、3日目に強豪が集中している。気比は初戦を突破しても強敵と当たる可能性が高い。近畿勢では智弁和歌山が期待できる。

選手宣誓の鳥羽・梅谷主将は、「伝統を受けつぎ、次につなげたい」と意気込む
選手宣誓の鳥羽・梅谷主将は、「伝統を受けつぎ、次につなげたい」と意気込む

2回戦から登場の日程に恵まれたチームでは、興南と関東一が有望。東海大相模は初戦がヤマで、ここを切り抜けられればかなり上位まで残れるだろう。今回も初日と3日目に同地区対決がある。滋賀勢はこれで4度目の近畿相手だ。これまでから述べているように、フリー抽選は「なにもわざわざ甲子園でやらなくてもいいだろう」というカードを生み出す。百歩譲って、フリーに徹するなら北海道と東京が初戦で当たらないように余計な「配慮」をするのはやめた方がいい。フリーと言っておきながら、これが最大の矛盾点だ。あと、選手宣誓は「第1回の優勝校に敬意を表して」(主催者談)、鳥羽の梅谷成悟主将(3年)に決まった。例年、希望者による抽選で、30人前後が手を挙げていたが、なぜこんなことになったのか。やりたかった主将は何人もいたと察するのだが...。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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