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スーパー進学校「洛星」甲子園なるか!  来春センバツ 21世紀枠候補9校決まる!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
センバツ21世紀枠の地区候補に、部員10人の洛星(京都)など9校が決まった

秋の高校野球シーズンは、11月の明治神宮大会をもって終了し、あとは来年1月27日のセンバツ選考会を待つだけになった。「神宮枠」を含む一般枠は、おおよその見当がつく。しかし、大会を盛り上げる「21世紀枠」は、戦力比較ではなく、学校そのものの評価になるので、予想は困難だ。

今春1回戦で実現した21世紀枠同士の熱戦は、釜石が小豆島の猛追を振り切った
今春1回戦で実現した21世紀枠同士の熱戦は、釜石が小豆島の猛追を振り切った

今春センバツでは、1回戦で21世紀枠同士の釜石(岩手)と小豆島(香川)が対戦し、釜石が2-1で勝った。両校満員のアルプス席が熱気に包まれたのは言うまでもない。震災禍の釜石、過疎によって統合を目前にした小豆島。21世紀枠の理念である「地元にいい影響を与える」両校が死力を尽くした熱戦は、実にさわやかだった。16日、地区候補になった9校いずれもが、センバツに新風を吹き込む可能性を秘めている。この日リリースされた資料をもとに、選考過程とともに9校のプロフィールを紹介する。

富良野(北海道)

開校90年を超える「ラベンダーの里」の伝統校。北海道の中央に位置する富良野は年間の寒暖差が大きく、冬場の練習が困難になるなど気候に恵まれない。秋は北海道大会で初戦を突破したあと、21世紀枠の「先輩」遠軽に敗れてベスト8で姿を消した。8月末の台風禍では、空知川の堤防決壊による洪水被害が大きく、車庫の屋根からヘリコプターで救助された選手もいる。秋季大会まで10日と迫っていたことから、全員が揃って練習することができない中、強豪ひしめく旭川地区でブロック優勝した。冬は外で練習することができず、廊下や体育館でテニスボールを使ってノックをしたり、スケートで下半身を鍛えるなど、工夫を凝らしている。

不来方(こずかた 東北=岩手)

昭和63(1988)年創立の比較的新しい県立高校。芸術、理数、外国語など、多彩な学科があり、進学成績も優秀である。秋の岩手大会では、わずか10人の部員で準優勝し、初めて東北大会に駒を進めた。初戦(2回戦)で強豪の八戸学院光星(青森)に4安打完封負けを喫したが、エース・小比類巻圭汰(2年)が粘りの投球で、強打線を2点に抑えた。少人数のため実戦形式の練習はできず、個人の練習量を増やすことでチーム力を向上させている。また、地元・矢巾町の祭りに毎年、部員がボランティアで参加して地域貢献していることから、県大会決勝では矢巾町の応援団がスタンドに駆けつけた。東北の選考は、豪雪地域の進学校・横手(秋田)との比較で難航したが、部員10人で頑張る不来方が、近年、全国的に問題になっている部員不足のチームに、勇気と希望を与えるということで選ばれた。

石橋(関東=栃木)

秋の栃木大会では、今夏全国優勝で、その後の関東大会でも優勝する作新学院と決勝で対戦。中盤まで互角に渡り合って(1-5で敗戦)、創部82年で、関東大会初出場を果たした。初戦で東海大望洋市原(千葉)に敗れたが、関東屈指の豪腕・金久保優斗(2年)から7安打2点を奪って、部員19人で奮闘した。179センチのエース・竹内海斗(2年)は、最速135キロで、秋は文星芸大付、白鴎大足利など、甲子園経験のある強豪私学を抑えている。今春は117人が国公立大に現役合格する進学校で、練習時間に制約がある中、創意工夫した練習メニューで力をつけた。関東は、他都県の学校を推薦する形で意見交換し、石橋を推す声が最も多かったことから全会一致で決定した。

多治見(東海=岐阜)

夏の猛暑で知られる多治見市からは、昭和33(1958)年に多治見工が春夏連続出場しているが、多治見はこの秋、初めて県大会で優勝し、岐阜1位で東海大会に進んだ。初戦(2回戦)で、至学館(愛知)に、内容では上回りながらも1-2の惜敗。エース・河地京太(2年)の4安打の力投もむなしく、一般枠では選出圏外になった。創立90年超の伝統を誇り、「一人一人の文武両道」を学校のスローガンとする。狭いグラウンドは当然、他部との共用で、早朝練習やバドミントンシャトルを使ってのバッティングなどで技術体力向上を図る。地元小学生対象の野球教室や身障者スポーツ大会でのボランティアなど、地域からの信頼は絶大である。東海は、秋の実績が十分であり、全員が地元生で文武両道を徹底する多治見が満場一致で選出の運びとなった。

富山東(北信越=富山)

創立55年の県立普通科で、秋の富山大会で準優勝し、北信越大会には36年ぶりの出場。初戦は突破したが、優勝した福井工大福井にコールド負けし、8強で姿を消した。野球部からも毎年、国公立大に合格者が出るなど、文武両道は全校生徒の目標でもある。狭いグラウンドを他部と共有し、短い練習時間の中で、効率のいい練習メニューを組むなどして力をつけてきた。昨夏の県大会で準優勝し、甲子園まであと一歩に迫るなど、近年の活躍は目覚ましい。北信越は、富山東の文武両道とチームの一体感、近年の良好な成績などが評価された。尚、長野から推薦されていた小諸商は、部内暴力があったとして、14日に推薦を辞退したのは残念だ。

洛星(タイトル写真 近畿=京都)

中高一貫の名門進学校として名高いが、これまで何度か甲子園に近づいたことがある。昭和56(1981)年秋に近畿大会初出場し、箕島(和歌山)に初戦敗退。このチームは夏も府4強に進んだ。その5年後にも秋近畿に進出したが初戦で惜敗(明石=兵庫に2-3)し、センバツ補欠校になった。

洛星の1年生エース・水江は中学時代京都で優勝経験もある逸材。内野陣の守備もいい
洛星の1年生エース・水江は中学時代京都で優勝経験もある逸材。内野陣の守備もいい

今秋は部員わずか10人(2、1年それぞれ5人)で奮闘し、府大会8強まで勝ち上がったが、龍谷大平安には0-5で2安打完封負けを喫した。中村好邦監督(39)の父は、平安(現龍谷大平安)の監督として春夏13回の甲子園出場を誇る中村雅彦氏(故人)で、因縁の相手に上位進出を阻まれた形だ。エース・水江日々生(ひびき=1年)は、中学時代に府下で優勝投手となった注目選手で、制球がいい。高校入試を実施しないため、中学からのチームメイトで構成されるが、近年は高校に進学する際に入部しない生徒が多いようである。近畿は洛星と彦根翔陽・翔西館(滋賀)に絞られ、全国屈指の進学校という点。「全員全ポジション」という方向性で、部員10人が助け合って上位進出を果たしたことが評価された。

倉吉東(中国=鳥取)

創立100年を超える鳥取中部の県立名門進学校。秋は鳥取の3位決定戦で敗れ、中国大会進出を逃した。センバツには2度出場し、昭和63(1988)年には2勝した。最終出場は夏の初出場となった平成7(1995)年で、来年で22年が経過することになる。9割の生徒が部活動に加入し、文武両道を実践しているほか、「時代に即した人材育成」をめざして特色ある教育を行っている。また、10月21日の鳥取県中部地震では災害復興支援のため、部員全員がボランティア活動に活躍した。甲子園出場時の足羽英樹監督が退任してからやや低迷していたが、ここ数年は復活の兆しが見え、今春の中国大会(前チーム)はベスト4まで勝ち上がっている。例年、中国地区の選考は難航するが、今回は最終的には倉吉東と尾道商(広島)に絞られ、ここ数年の安定した戦績や文武両道、地震時のボランティア活動を継続して行っている点が決め手となった。

中村(四国=高知)

秋の高知大会で、40年ぶりに優勝した。四国大会は初戦(2回戦)で延長惜敗したが、県決勝で明徳義塾を2-0で完封した星が光る。創立116年の伝統校で、文武両道は長く地元の人たちに支持されている。昭和52(1977)年センバツではわずか12人で準優勝し、全国のファンを魅了した。今回の部員も16人で「定員未満」。交通の便が悪く、公式戦は前泊を余儀なくされるなど、ハンディも少なくない。それでも今夏は県決勝に進んでいて、急激な人口減で過疎に悩む四万十市民の大きな希望となっている。夏、あと一歩に迫った甲子園が、21世紀枠によって現実のものとなるか。地元の期待は高まるばかりだ。四国は戦績で勝る中村と生光学園(徳島)の争いとなり、生光が甲子園未経験ながらも、県外選手がいることや専用球場を持つなど私学ならではの特徴が21世紀枠にそぐわない。反面、中村は推薦要件を全て満たし、「地域一体」が顕著として文句なく選ばれた。

高千穂(九州=宮崎)

来年、創立100年を迎える伝統校で、もともと部員不足に悩んできた歴史がある。秋は22人の部員で県大会準優勝。九州大会では初戦で敗退した。九州山地のぼぼ中央に位置し、地元は過疎に悩む。遠方から通学する選手も多く、練習時間は限られている。地元愛の強い1年生が15人も入部し、チームに活気をもたらした。野球部は地域イベントへの参加や週一回の清掃活動、観光事業へのボランティアなど地域と密接に結びついている。熊本にも近い高千穂は、4月の大地震の影響が少なからずあり、観光にはかなりの打撃となったが、野球部の活躍は地元に勇気を与えている。九州は、長崎東と宮古総合実(沖縄)を合わせた3校に絞って検討し、困難克服の度合いが高いことと九州大会での戦いぶりが上回るとして、高千穂が地区候補を射止めた。

部員「10人」の2校に注目

選考は、北海道、東北、関東、東海、北信越を東ブロック。残る4地区を西ブロックとして、東西から1校ずつを選出。残る7校から最後の1校を選ぶ。今回も西日本に有力校が多い。

洛星、守備時のベンチ選手は吉田大樹主将だけ。攻撃時、吉田は三塁コーチャーに
洛星、守備時のベンチ選手は吉田大樹主将だけ。攻撃時、吉田は三塁コーチャーに

地区大会に出場している学校は多くないので、戦力比較は難しく、選考会当日のプレゼンテーションが大きなよりどころとなる。この枠に限られた14~5人の特別選考委員が3校を選ぶが、かつてプレゼン後に、「選手の特長を盛り込んで欲しい」という注文も出たほどだ。また、今回は部員不足のチームが目立ち、不来方と洛星はわずか10人。10人で奮闘する姿は観る者の共感を呼ぶに違いないが、不測の事態も考えられる。例年以上に、21世紀枠の選考を注目したい。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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